照射を省略した乳房温存手術の10年の長期成績のレトロスペクティブな検討から、詳細な病理診断で遺残癌が少ないと考えられる群では、照射を省略しても温存乳房内癌(IBTR)の発生率は9.1%にとどまり、遠隔転移発生に影響していないことが示された。6月27日から29日まで浜松市で開催された第21回日本乳癌学会学術総会で、がん研究会有明病院乳腺センター外科の坂井威彦氏が発表した。

 同院では、癌が残存していない可能性が高い症例を選択し、1994年から非照射温存手術を行ってきた。1999年から乳房非照射基準は「全割標本の切除断端(SM)より5mm以内に癌細胞を認めない」、「リンパ管侵襲なし、または腫瘍周囲に少量」、「リンパ節転移なし、または3個以下(4個以上は、所属リンパ節も含めて照射の適応)」としている。ただし、術前化学療法施行例はこれらの判断が困難であるため、全例に照射を行っている。

 坂井氏らは、詳細な病理診断に基づいて行われてきた、非照射乳房温存手術症例の長期成績、ならびに乳房温存手術の予後に影響を与える因子について検討、報告した。

 対象は、1999年から2001年までに原発性乳癌に対し同院で乳房温存手術を行った1225人のうち、術前化学療法、非浸潤癌、異時両側乳癌の第2癌、最終的に乳房切除となった症例を除いた898人。乳房温存手術と照射を行った群(照射群)は417人(46.4%)、非照射乳房温存手術を行った群(非照射群)は481人(53.6%)となった。観察期間中央値は108カ月だった。

 長期成績の評価項目として、局所再発率(IBTR)と遠隔再発率(所属リンパ節を超えた再発他臓器転移)を評価した。さらに乳房温存手術後の遠隔再発のリスク因子も検討した。

 断端の状態(SM)で両群を分けているため、照射群ではSMが5mm以内の患者が68.3%、非照射群では5mmを超える患者が82.1%となった(p<0.001)。非照射群と比べて、照射群では有意にリンパ節転移やリンパ管侵襲の割合が高く、平均年齢も若く、化学療法が行われた割合が高かった。

 結果として、10年のIBTR発生率は、照射群2.4%、非照射群9.1%となり、照射群で有意に良好な結果だったが(p<0.01)、病理学的に十分に選択された症例では、非照射でも10%以下にとどまることが示された。

 さらに、局所再発率に有意差があったにも関わらず、10年の遠隔転移発生率は、照射群9.3%、非照射群7.4%となり、両群に有意差を認めなかった(p=0.41)。

 IBTRを起こすと乳癌死のリスクが上昇することは知られているが、今回の検討ではIBTRが遠隔再発につながっていなかった。坂井氏らはその理由についても検討した。

 IBTRには、癌遺残から発生する「True recurrence(TR)」と、癌が新規に発生する「New primary(NP)」が存在する。TRは発見されるまで長期間体内に存在し、照射や全身療法などの治療に抵抗して発生する癌で、生物学的に悪性度の高い癌が多く含まれる。一方、NPは新規に発生する癌で、早期発見が早期治療につながる癌と理解されている。

 IBTRでNPが発生した21人では遠隔転移は1人のみだったが、TRが発生した27人では遠隔転移は10人に発生していた(p<0.001)。乳房温存手術後の遠隔再発のリスク因子としては、39歳以下(ハザード比(HR)2.63)、リンパ管侵襲あり(HR3.41)、化学療法あり(HR1.82)に加え、IBTRのTR(HR4.69)が挙げられた。

 照射を省略したこと、IBTRのNPが発生したことは遠隔再発のリスク因子にはならなかった。初回手術で癌の遺残がないものは、IBTRが起こってもNPの可能性が高く、遠隔転移にはつながらないと考えられた。

 坂井氏は「解剖学的な進行度の高い癌に、一律に化学療法が行われていた時代から、化学療法の与えるデメリットを考慮して、化学療法が有用な患者に施行されるようになってきた。現在一律に行われている放射線療法にも、経済性、整容性、二次癌の発生などのデメリットがあり、必ずしも全例で有用とは言えない。得られるメリットを勘案して行う個別化治療が今後は必要である。適切な症例選択ができれば、非照射温存手術は選択肢の一つになりえる」と話した。

 今回の対象ではサブタイプによる検討が行われていないため、今後検討項目に加えて前向きの臨床試験を行い、非照射が許容される症例群についてさらなる検討がなされる予定だ。