原発乳癌に対する術前化学療法(NAC)施行後の病理学的完全消失(pCR)の診断において、術前診断法の検討結果が報告された。MRIと超音波(エコー)の併用によりpCRを高率に予測できる可能性があることが示された。6月27日から浜松で開催された第21回日本乳癌学会総会で、聖路加国際病院の林直輝氏が発表した。

 原発乳癌に対するNACの進歩によりpCRが得られる患者が増加している。現在のところ、pCR率は、HER2陽性では約4割、トラスツズマブ投与により4〜8割との報告もある。トリプルネガティブでも3割はpCRに達するという報告もある。しかし、現時点ではpCRを正確に診断するには外科的切除による評価が必要だ。

 そこで、林氏らは、「原発乳癌に対するNAC施行後に病理学的完全消失(pCR)を術前画像診断で正確に診断できれば外科的切除が不要となる」との仮説のもと、次の3つのステップが必要と考えた。ステップ1では、NACで腫瘍消失(cCR)が得られた患者の術前画像診断と術後病理診断を比較し、正診率を比較した後ろ向き研究。ステップ2として、術前画像診断に加え、さらなる病理学的介入(術前組織生検)により、pCR術前診断の精度の向上を評価する多施設前向き研究。最後にステップ3として、NAC後に術前診断(画像および組織生検)で完全消失と診断した原発乳癌患者において、手術施行群と非施行群の予後を検討する多施設ランダム化臨床試験だ。

 まずステップ1として、術前化学療法後、MRIに加え超音波を併用した画像診断によるpCRの正診率を評価するための後ろ向き研究を行い、今回その結果を発表した。
 
 対象は、2004 年から2008 年にNAC後乳房部分切除術を受けたI−III期の原発乳癌569例とし、術前画像診断(MRI単独、および超音波併用)におけるcCRの感度、特異度を評価した。

 研究では画像診断の基準を定義した。MRI、超音波で明らかな完全消失はcCR、早期相で造影される明らかな浸潤癌残存はnon-pCRとした。早期相での不明瞭な造影を浸潤癌残存、MRIで晩期相のみでの造影増強効果および超音波で血流消失を伴い点状、索状低エコー域のみの残存は乳管内病変(in situ lesion)残存とした。

 ホルモン受容体(ER/PgR)の病理学的評価については、免疫組織学的検査(IHC)により≧10%とし、HER2ではIHC3+またはFISHによる遺伝子増幅ありの症例とした。pCRの定義は、原発巣で浸潤の残存を認めないこととし、リンパ節転移の有無は含めなかった。

 対象となった569例の患者背景は、年齢中央値50歳、閉経前/閉経後は約半数ずつ、Clinical T stageは2が最も多かった(1/2/3/4:10.9%/76.8%/10.2%/2.1%)。Pathological T stageは1、2が多かった(0/1/2/3/4:15.1%/39.0%/37.3%/5.6%/1.6%)。術後のリンパ節転移は陰性と陽性がほぼ半数ずつ含まれた(0は48.7%、≧1は51.3%)。また、ER陽性/陰性が73.1%/26.9%、PgR陽性/陰性が40.9%/ 59.1%、HER2陽性/陰性/不明はそれぞれ16.2%/82.8%/11%だった。
 
 治療については、ほとんどがアントラサイクリン系とタキサン系の両方を使用しており(アントラサイクリン+タキサン/アントラサイクリン単独/タキサン単独/その他:91.7%/0.3%/0.7%/7.2%)、そのうち2.1%でトラスツズマブが投与されていた。
 
 MRIと超音波によるcCRと実際のpCR診断を評価した結果、MRI単独でのpCR診断の感度は83.7%、特異度は98.6%だったのに対し、MRI+超音波では感度は79.1%、特異度は98.6%であり、併用した群でわずかに感度が劣った。なお、pCRが得られた86例中、MRIでのみcCRが示されたのは10例(11.6%)、超音波のみは6例(7%)だった。

 また、術前画像診断でcCRと診断された91例における陽性的中率は、ER陽性乳癌92.9%、ER陰性HER2陽性乳癌81.5%、トリプルネガティブ乳癌100%だった。

 pCR が得られた86例中、乳管内病変(in situ lesion)残存は43例(50%)で残存病変の大きさは中央値2.0cm(範囲0.01-8.0cm)。画像でin situはないと診断された症例のうち、実際にpCRが得られていて in situ残存がなかったのは67%だった。このことはin situの正確な診断は難しいことを示していると林氏は言う。

 これまでの結果から、林氏は次のように考察した。NSBP B-18試験で報告された画像診断におけるNAC後pCRの評価によると、触診のみではあるが、術前にcCRと診断された36%のうち、実際にpCRが得られたのは9%、つまり4分の1しかなかった。その後、MRIや超音波の画像診断でpCRの正確な診断を試みる検討は数多くなされている。既報告にもあるように、正確な診断を困難にする原因として、血流低下、線維化、壊死などがMRIでの過小評価や超音波による過大評価を生むと考えられる(Belli P, et al, clin Radiol 2006, Rosen EL, et al, AJR 2003)。

 これらの結果から、「MRIと超音波併用によりNAC後にpCRとなる原発乳癌を高率に予測できることが示唆された。しかし、乳管内病変残存までの評価は困難だ」と、林氏は結論付けた。

 その上で、本研究で得られた残存病変中央値が2.0cm(0.01-8.0cm)であることから、林氏らは、マンモトーム生検(8G針で薬300mg、11G針で薬100mgの検体が得られ、繰り返し採取可能) による5〜10本の検体での病理学的評価を加えることにより、pCRの正診率のさらなる向上が期待できるのではないかとの新たな仮説を立てた。ステップ2として、現在、これらを評価する前向き多施設研究を計画中だ。