HER2陽性乳癌における術前化学療法後の病理学的完全寛解(pCR)は、ホルモン受容体陽性(HR+)例では予後予測因子とはならない可能性が示唆された。ただし、HR+例では、どのpCR定義を用いても術前化学療法後のpCR率は低いが、non-pCR例においても予後は比較的良好だった。6月27日から浜松で開催された第21回日本乳癌学会総会で、兵庫県立がんセンターの谷岡真樹氏が発表した。

 HER2陽性乳癌患者では、術前化学療法後にpCRが得られればnon-pCRだった場合に比べて予後が良好で、pCRは予後を予測すると考えられているが、HER2陽性かつHR+患者におけるpCRの意義は明確ではない。2011年のドイツからの報告(Untch M, et al, J Clin Oncol29:3351, 2011)によると、HER2陽性例のうち、HR−例ではpCRが得られた患者は、pCRが得られなかった患者に比べて予後が良好だったが、HR+例ではpCR例とnon-pCR例の間に予後の差はなかった。

 さらに、pCRの定義が厳しくなるほど予後良好との報告もあり、pCRの明確な定義がなされていないのが現状だ(von Minckwitz G, et al. J Clin Oncol 2012 1796)。
 
 そこで、HER2陽性乳癌におけるpCRの予後予測因子としての意義を明らかにする目的で、谷岡氏らの施設を含めた国内6施設において、2003-2010年にHER2陽性(免疫染色3+またはFISH2.0以上)かつ術前化学療法を施行した366例を後方視的に検討した。
 
 免疫染色で1%以上のER+またはPgR+をHR+とし、pCRは定義別に、効果予測因子に関してロジスティック回帰分析を、その無再発生存期間に関してログランク検定を行った。

 pCR は次の3つの定義で分類した。(1)ypT0ypN0:原発巣および腋窩リンパ節のすべての癌消失、(2)ypT0/is ypN0:原発巣および腋窩リンパ節の浸潤癌消失、(3)ypT0/is yp N0/+:原発巣のみ浸潤癌消失。

 全患者366例において、HR−/HR+は190例/176例、年齢中央値は54歳、観察期間中央値は55カ月だった。ほとんどが浸潤性乳管癌で、全患者の病期はII期が多く(I/II/III期が4%/62%/34%)、術前にアントラサイクリン、タキサン、トラスツズマブの投与を74、89、56%の患者が受けていた。トラスツズマブの術前後1年間投与症例は60%に及んだ。また、HR+群では93%が術後ホルモン療法を受けていた。

 HR発現により分類し、各定義別のpCR率を比較した。HR−/HR+両群で、pCRの定義が緩くなるほどpCR率が上がったが、HR+群ではHR−群に比べてpCR率はやや低い傾向があった。HR−群のpCRの定義別pCR率は(1)34%、(2)49%、(3)51%、HR+群では(1)13%、(2)21%、(3)23%。

 pCR(ypT0/is ypN0)の予測因子を求めた多変量解析では、HR+、年齢50歳未満、アントラサイクリン、タキサン、トラスツズマブを検討した。HR+では、HR−に比較して約3倍、pCRが得られにくいことが示された(オッズ比:0.34、p=0.001、95%信頼区間:0.21-0.55)。アントラサイクリン、タキサン、トラスツズマブの治療歴はいずれもpCRが得られる予測因子だった。

 HR発現と無再発生存期間(RFS)との関連を検討した結果、HR−群ではnon-pCR症例に比べて、pCR(ypT0/is ypN0)症例で有意に予後良好だったが、HR+群ではpCR症例とnon-pCRで有意な差はなかった。

 この傾向はpCRの定義別でも同様で、HR−群では、(1)(2)(3)のいずれの定義でもpCR症例における5年無再発生存期間(RFS)はnon-pCR症例に比べて有意に予後良好だったが、HR+群ではいずれの定義においてもpCRが得られた症例とnon-pCR症例の間で有意差はなかった。ただし、HR−群では、定義(1)によるpCR症例の5年RFS率が97%、non-pCR症例が71%だったのに対し、HR+群ではpCR症例の5年RFS率が92%だったのに対し、non-pCR症例でも84%で、HR+群ではpCRが得られなくても予後が比較的良好と考えられた。

 全生存率(OS)とHR発現の検討においても、HR−群ではnon-pCR症例に比べてpCR症例が有意に良好だったのに対し、HR+群では2グループ間で有意差はなかった。なお、HR+群ではnon-pCR症例でも予後が良好だった。

 谷岡氏らは、これらの知見は、米国で1万3千人を対象に実施された大規模試験(CTNeoBC)の報告と比較して、ほぼ同様の結果だったとした。

 次に、術前トラスツズマブを投与した204例における予後との関連を解析した。術前トラスツズマブを受けた患者のうち、約8割が1年間のトラスツズマブ投与を受けていた。HR+/HR−は45%/52%で、各定義別のpCR率はそれぞれ(1)29%、(2)43%、(3)45%。

 RFSを検討した結果、HR−群(111例)ではnon-pCR症例に比べてpCR症例でRFSが良好な傾向がみられたのに対し、HR+群(93例)では2グループ間で差がないという同様の結果だった。こちらもCTNeoBCの報告と一致していた。

 この研究のLimitationとして、後方視的研究である、トラスツズマブ投与を受けた患者が半数以上いる、サンプルサイズが小さい、病理学的所見の中央判定を受けていない、HR+患者の多くが術後ホルモン療法を受けているなどを挙げつつも、「HER2陽性でホルモン受容体陽性患者では、陰性患者と比較して、どのpCR定義を用いても術前化学療法後pCR率は低く、なお予後は良好であり、pCRの予後への影響は小さかった」と、谷岡氏は結んだ。