病歴や家族歴を用いてBRCA1/2遺伝子変異などの保有確率を予測するツール「Myriad table」と「BRCAPRO」は、日本人女性において有用である可能性が報告された。がん・感染症センター都立駒込病院乳腺外科の有賀智之氏が、6月27日から29日まで浜松市で開催された第21回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 乳癌の5〜10%は遺伝的な要因で発症すると考えられており、最も多いものとして遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)が知られる。主な原因遺伝子はBRCA1/2で、遺伝子変異を保有すると乳癌と卵巣癌の罹患リスクが上昇することが報告されている。

 BRCA1/2変異の有無は遺伝子検査で判定できるが、遺伝子検査を受ける前段階に、患者本人の病歴と家族歴を利用して遺伝子変異の保有確率を予測するツールとしてMyriad table、BRCAPROなどが作成されている。Myriad tableは、乳癌および卵巣癌に関する患者本人の病歴と家族歴をもとに遺伝子変異の保有確率を算出する。BRCAPROはさらに他の悪性疾患罹患時の情報など多くの家族の情報を元に確率を算出する。ただし、これらの予測ツールは主に欧米人のデータから構成されており、日本人女性における予測の妥当性に関しては報告がない。

 そこで有賀氏らは、乳腺外科初診時に得られた本人と第1、2度近親者に関する癌罹患情報(情報A)と、遺伝子カウンセリング外来で得られた本人と第1、2度近親者に関するより詳しい癌罹患情報(情報B)をもとに、それぞれMyriad tableとBRCAPROを用いて遺伝子変異保有確率を算出した。さらに、実際の遺伝子検査結果と比べることで予測ツールとしての有用性を検討した。

 対象は、同院で2012年1月〜2013年2月に遺伝子カウンセリング後に遺伝子検査を実施した10人。遺伝子カウンセリングはおよそ1時間かけて行われた。

 BRCA1/2の遺伝子検査は、タンパク質情報をコードする全てのエクソンを解析(フルスクリーニング)したほか、多重連鎖反応依存性プローブ増幅(MLPA)法を用いた。

 対象者の罹患歴は、乳癌罹患者が9人、悪性疾患罹患歴のない人が1人(遺伝子カウンセリングで近親者に癌罹患歴が判明)だった。10人のうち、両側乳房の乳癌罹患歴を持つ人が3人いたほか、他の癌種の罹患歴を持つ人が3人だった。他の癌の罹患歴としては肺癌1人(両側乳癌例)、子宮頸癌1人(片側乳癌例)、腹膜癌1人(両側乳癌例)だった。年齢は34-68歳。

 遺伝子検査によって、10人中3人でBRCA1またはBRCA2の病的変異が検出された(BRCA1変異が1人、BRCA2変異が2人)。2人に疾患との関連が明らかではない変異が認められた(うち1人はBRCA2変異あり)。BRCA1またはBRCA2の病的変異があった人は、Myriad tableによる保有確率が21.2-26.3%と予測されていたのに対し、BRCAPROによる保有確率は89.0-95.9%と高い予測値だった。

 一方、BRCAPROで変異保有確率が65.6-76.4%と算出されていても、遺伝子検査では変異が認められなかった対象者もいた。

 情報A、情報BそれぞれをもとにMyriad tableによる遺伝子変異保有確率を算出したところ、10人中9人は情報Aを用いた際と情報Bを用いた際の確率に違いがなかった。1人は、情報Bを用いた際の遺伝子変異保有率が、情報Aを用いた際と比べて上昇した(1.5%→3.0%)。

 一方、BRCAPROによる遺伝子変異保有確率は、全ての対象者において情報Aを用いた際と情報Bを用いた際の確率に違いが見られた。7人は遺伝子変異保有確率が低下したほか、3人は上昇した。

 乳腺外科初診時の情報からMyriad tableにより遺伝子変異保有確率が20%以上の予測値だった5人のうち、3人に遺伝子変異が認められ、遺伝子カウンセリング時の情報からBRCAPROにより遺伝子変異保有確率が85%の予測値だった3人全員に遺伝子変異が認められたことから、有賀氏は、「Myriad tableとBRCAPROは日本人女性にも遺伝子変異を予測するツールとして一定の妥当性が期待できる。乳腺外科初診時に入手できる少ない家系情報を用いてMyriad tableをまず算出し、遺伝子変異ハイリスク患者を拾い上げることは有効な手段で、Myriad tableで20%以上の場合にはさらに遺伝カウンセリングを紹介し、詳細な家系情報を聴取し、BRCAPROを使用したリスク評価を行うことが重要」と強調した。