乳癌マンモグラフィによる集団検診を受けた患者のうち、要精査者の約70%が不安・抑うつを感じていることが、1次検診で要精査となり、精査目的で受診した患者を対象とした調査で明らかになった。6月27日から浜松で開催された第21回日本乳癌学会総会で、聖路加国際病院の北野敦子氏が発表した。

 対策型検診は、有効性の確立した検診を徹底した精度管理のもとで正しく施行することで癌の死亡率を低下させることを目標とする。乳癌検診のメリット(=死亡率低下)から種々のデメリット(不利益)を差し引いたものがネットベネフィットだが、近年、より高いネットベネフィットを得るためには、いかに不利益を減らすかが重要と考えられ、癌検診のメリットだけでなく、不利益に対しても正しい評価が求められていると北野氏は説明する。

 癌検診の不利益(harm)には、検査に伴う被曝、良性疾患に対する不必要な組織診・細胞診、医療経済的な問題、精査機関の負担、患者にとっての時間的拘束、心理的影響などがある。北野氏らは、中でもこれまで国内では十分に検証されていない心理的影響について取り上げ、研究を行った。

 目的は、乳癌検診で要精査となった受信者の不安抑うつの程度を評価し、それに関連する要因を評価することとした。

 対象は、2012年3月から2012年10月までに1次検診で要精査と評価され、精査目的に同院を受診し、本研究への同意が得られた女性受診者320人。すでに細胞診・組織診で診断がついている患者、または精神疾患の既往がある女性は除外した。

 対象者に対し、診察前に3つの質問紙調査を行った。はじめに、社会的背景・受信歴を調べる「患者背景に関する質問用紙」、2番目は不安・抑うつの評価のための「HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)」、3番目はストレス対応行動を評価する「BriefCOPE」だ。

 まず、「患者背景に関する質問用紙」では、患者背景および検診内容に関する質問を行った。患者背景では、「年齢」「居住地区」「職業」「月経状況」「学歴」「配偶者の有無」「成人前の子供の有無」「乳癌の家族歴」「周囲の乳癌罹患者の有無」についての質問がなされ、また受診契機となった検診内容については、「検診の種類」「検診内容」「検診回数」「要精査となった回数」「要精査となり医療機関を受診した回数」「検診結果の伝達方法」「検診結果の説明内容」「要精査指摘から受診するまでの期間」といった質問が含まれた。

 不安・抑うつの評価のためのHADSは、全14問(計42点)の質問で構成され、不安の評価と抑うつの評価が各7問(21点ずつ)だった。点数が高いほど不安・抑うつが高いと判断する。

 ストレス対応行動の評価のためのBriefCOPEは、14項目のストレス対応行動タイプ(気晴らし、積極的コーピング、否認、アルコール・薬物使用、情緒的サポート利用、道具的サポート利用、行動的諦め、感情表出、肯定的再解釈、計画的、ユーモア、受容、宗教・信仰、自己非難)に分類して円上に表すもので、1項目あたり2問の質問で合計8点、全28問の質問で構成した。

 研究の結果、有効回答数は312人(有効回答率97.5%)で、患者背景では、年齢の中央値は45歳(23-78歳)。約7割の受診者が「都内在住」、「職業があり」、「閉経前」で、「大学卒業以上」だった。「乳癌の家族歴があり」は全体の4割。検診関連内容については、「初回検診」だった患者は13%で、「2-4回」が46%、「5-9回」が26%、「10回以上」が14%だった。「身近な乳癌の知り合いがあり」は42%だった。

 これまでの要精査の回数では、全体の7割が「今回初めて」と回答した。結果説明方法では、「口頭で説明」と「郵送での説明」はほぼ半数ずつで、検診結果の内容については、6%が「悪性の疑い」と告げられ、そのほかは「良性疑い」(25%)「良悪性判別困難」(20%)「説明なし」(28%)「その他」(21%)だった。検診から受診までの期間は「2週間以内」「2-4週間」「1-2か月」がそれぞれ約3割だった。

 不安・抑うつの評価を表すHADSの分布では、中央値10点(1-35点)、平均値11.1で、HADSのカットオフ値として頻用される8点を用いると、全体の70%以上と多くの受診者が不安・抑うつを抱いていることが明らかになった。なかには30点以上と、強い不安・抑うつを抱いている受診者もいた。

 このHADSの結果から、患者背景と不安・抑うつの関係を調べた。カットオフ値とした8点未満と8点以上に分け、χ二乗検定を行った。不安・抑うつとの関係に有意差を認めたのは、患者背景では「東京在住」(8点未満73人:8点以上141人)、「乳癌の家族歴あり」(12人:50人)で、また検診関連では、「初回要精査」(56人:163人)、「初回受診」(54人:165人)、「結果説明を郵送で受けた」(32人:110人)、「検診結果内容が良悪性判別困難」(10人:50人)、「検診から受診までの期間が2週間以内」(17人:65人)だった。

 3番目のストレス対応行動を評価するBriefCOPEについても、同様にHADSカットオフ値8点を用いて検討した。8点未満対8点以上で有意差が認められたのは、「自己非難」(BriefCOPE平均値3.47:4.41)、「行動的諦め」(3.15:3.69)、「気晴らし」(4.81:5.33)「情緒的サポートの利用」(5.09:5.50)「感情表出」(4.54:4.88)「否認」(2.84:3.14)「受容しにくい」(6.40:6.08)だった。それぞれの点数が高いほど不安抑うつが強いことが示された。

 ストレス対応行動の調査で示されたタイプ別にみると、通常、ストレス耐性が低いのではないかと思われる人だけではなく、「道義的サポートの利用」「気晴らし」型など、自らストレスを発散しようと心がける人でも不安抑うつが強いことが示された。このことから、ストレス対応行動タイプにかかわらず、検診によって不安抑うつが引き起こされることが示唆された。

 そこで北野氏らは、考察として、本研究の結果をスウェーデンで行われた同様の研究の結果と比較した。HADS平均点はスウェーデンが11.2点であったのに対し、日本の本研究では11.1点で、ほぼ同様の結果だった。

 諸外国からの報告では、「乳癌の家族歴」および「精査受診までの期間があいていること」が不安抑うつの因子であるのに対し、日本では、「乳癌の家族歴」に加え、「初回検診」「初回要検査」など複数の因子が認められたほか、精査受診までの期間については諸外国とは異なり、2週以内の場合に不安抑うつが強かった。これについては、海外と日本では精査受診のしやすさの違いが関連しているのではないかと北野氏らは推察した。

 また、癌患者のデータと比較した場合、癌患者のHADS平均点は8.7点、本研究の要精査者11.1点であり、要精査者では平均的な癌患者よりも不安抑うつが高いことが示された。

 以上の結果から、北野氏は、「検診要精査者の約70%に不安抑うつがみられた。乳癌検診で要精査となることは受診者の多くに強い不安抑うつを引き起こす可能性を認識した上で、今後の乳癌検診のあり方を検討していく必要がある」と締めくくった。