「mTOR阻害剤は内分泌療法抵抗性乳癌において高い効果が期待される薬剤で、数種の内分泌療法を順次施行した後、最後に化学療法へ移行するという従来のLuminal乳癌の治療コンセンサスから、ファーストライン後にmTOR阻害剤併用で投与するという方向へのパラダイムシフトをもたらすかもしれない」──6月28日から30日まで熊本で開催された第20回日本乳癌学会総会のプレジデンシャルシンポジウム「分子標的療法の現状と展望」で、がん研究会有明病院乳腺内科の伊藤良則氏が語った。

 エベロリムス、テムシロリムスなどのmTOR阻害剤は、ホルモン(HR)抵抗性乳癌において内分泌療法との併用で優れた臨床データが近年報告されている。また、mTOR阻害剤には骨転移発症の遅延や血管新生阻害による効果も示唆されている。

 mTOR(mammalian target of rapamycin)は、細胞内のPI3K/Aktシグナル経路の下流に位置し、CyclineDによる細胞増殖、Glut-1による代謝、HIF-1を介した血管新生の3つに関与するほか、S6キナーゼに影響してタンパク質合成を制御する役割を担う。

 HR陽性乳癌では、PI3K/Aktはエストロゲン(ER)受容体とのあいだでクロストークが存在すること、およびアロマターゼ阻害剤(AI)抵抗性乳癌ではこの経路が活性化されていることがわかっている。

 ランダム化フェーズ2試験であるTAMRAD試験では、内分泌治療抵抗性になった閉経後乳癌患者を対象に、タモキシフェンとエベロリムス併用は、タモキシフェン単独群に比べて無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を有意に改善した。

 昨年12月に結果が報告されたフェーズ3試験であるBOLERO-2試験では、AI抵抗性の進行/再発性閉経後乳癌を対象に、エキセメスタン単独群に対するエキセメスタン+エベロリムス併用投与の有効性を検討した。その結果、エベロリムス併用群はエキセメスタン単独群に対して、PFSを2.7倍延長することが示された。

 エベロリムス併用群は、奏効率(12.6%)や臨床ベネフィット(51.3%)についても有意にエキセメスタン単独群を上回った。サブ解析でも、人種(日本人)や年齢、過去の治療を問わず、すべてのグループでエベロリムス併用による優位性が示された。現時点ではOSの結果はまだ出ていないが改善が予測されるという。

 「副作用では、非感染性肺臓炎に留意すること」と伊藤氏は述べた。他には口内炎、発疹、疲労感などがみられたがいずれも管理可能だった。

 また、このほかにもBOLERO-2試験では、同薬の興味深い2つの作用が示唆されたと伊藤氏は述べた。

 1つは骨転移への効果の可能性だ。mTOR阻害剤は、RANKLからのS6キナーゼを阻害して骨代謝へ作用するとみられる。実際にBOLERO-2試験で各種骨マーカーの低下も認められ、エベロリムス併用群では骨転移の発症や進行を遅らせた。

 もう1つは、HIF-1を介したVEGF阻害により血管新生阻害が期待できるという可能性だ。基礎的な検討において、ER陽性乳癌を間質とともに移植すると、間質から分泌されるVEGFにより乳癌細胞はエストロゲンなしでも増殖することがわかっている。mTORを阻害することで、その下流にあるHIF-1を抑制し、抗血管新生作用が得られる可能性がある。「PFSをこれだけ長く延長させたのは血管新生阻害作用が関与している可能性がある」と、伊藤氏は述べた。