日本におけるBRCA遺伝子変異陽性患者に関する日本乳癌学会班研究の成果を、研究班長の昭和大学医学部乳腺外科の中村清吾氏が、6月30日まで熊本市で開催された第20回日本乳癌学会学術総会で最終報告した。

 BRCA遺伝子検査を受けた患者のうち、BRCA1またはBRCA2に遺伝子変異があったのは28.3%だったことが示された。今回、構築された日本人BRCA陽性患者データベースは、日本乳癌学会だけでなく、日本人類遺伝学会、日本婦人科腫瘍学会の計3学会で共同管理する方針。

 また、今回の班研究データをもとにさらに研究を進め、BRCA検査のほか、BRCA陽性患者への積極的な検査と予防治療についても先進医療を申請し、将来的には保険適応につなげていく必要があると中村氏は強調した。

 乳癌患者のうち7〜10%は、遺伝子変異が原因の遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)とされ、その多くはBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に変異があることが報告されている。BRCA1遺伝子変異を持つ患者では、生涯乳癌発症リスクが6〜8割と非常に高いほか、乳癌再発リスクや卵巣癌を発症するリスクが高いことも知られる。

 そのため、乳癌発症リスクの高い遺伝子変異を持つ患者に対し、より精緻な検診、生活様式の変更、化学予防、予防的手術などが求められるが、どのような検査・治療を行うべきかについては大きな課題となっている。

 今回、中村氏が最終報告したのは、2010年度日本乳癌学会班研究課題「我が国における遺伝性乳癌・卵巣癌及び未発症者への対策に関する研究」。

 合計2年間の研究で、1.HBOCへの対策が進む欧米アジア各国のBRCA陽性患者に対するカウンセリングや検診・診断・治療の最新動向を調査する、2.国内の家族性乳癌患者に対するカウンセリング体制や、BRCA陽性患者に対する対応状況の調査、3.家族性乳癌に対するカウンセリングのあり方の討議、4.BRCA陽性患者に対する検診・診断・治療において、将来の保険適応を視野に入れた先進医療の計画・立案、5.日本乳癌検診学会と連携した検診プログラムを策定、実施、6.BRCA陽性患者と未発症陽性者へのカウンセリング体制と検診・診断・治療に関する指針(案)を作成し、診療ガイドラインに組み入れる元とする──の6項目について検討した。

 まず、HBOC遺伝子検査の対象者の条件については、2011年のNCCNガイドラインを参考に、条件を明示した。本人の乳癌歴のほか、45歳以下での乳癌診断、近親者が卵巣癌または卵管癌・腹膜癌、60歳未満のトリプルネガティブ乳癌、本人が50歳未満の乳癌でかつ第二度近親者内に2人以上の女性乳癌患者、第三度近親者内の男性乳癌、本人が膵臓癌、本人が乳癌もしくは卵巣癌かつ第三度近親者内に2人以上の膵臓癌―などの条件が1項目以上該当した場合とした。

 日本乳癌学会認定施設217施設が回答した遺伝性乳癌卵巣癌の診療状況調査結果からは、遺伝性乳癌卵巣癌への遺伝カウンセリングに対応していると回答した施設は14.7%(32施設)にとどまる実態が示された。遺伝カウンセリングの担当者が臨床遺伝専門医あるいは認定遺伝カウンセラーの資格をもっていると回答した施設は53.8%(21施設)だった。

 さらに、中村氏は、日本人HBOC患者のデータベースを構築したことも報告した。日本におけるHBOCの診療実態を明らかにし、日本人患者の自然歴を追跡できるシステムを構築するほか、海外の診療実態や自然歴と比較することが目的。将来的には日本人患者に最適な診断・治療指針の作成につなげる考えだ。

 2012年3月末までの集計データによると、遺伝子カウンセリングを実施したのは645件、遺伝子検査を実際に行ったのは325件。このうちBRCA1またはBRCA2に遺伝子変異があったのは76人(28.3%)だった。また、BRCA1・2遺伝子検査を受けた178人中のうち、BRCA1陽性は16.3%、BRCA2陽性は9.6%、BRCA1.2陽性は1.6%、BRCA1もしくは2の発現状態不明は9.0%となり、BRCA1・2陽性患者は全体の27.0%を占めた。乳癌タイプをみると、BRCA1陽性患者においてはトリプルネガティブ患者が半数以上だったのに対し、BRCA2陽性患者ではLuminalタイプが約7割を占めていた。乳癌発症年齢別のBRCA陽性患者の検出率では、30歳未満が33.3%、35歳未満が27.6%、40歳未満が34.5%、45歳未満が30.4%、50歳未満が29.4%だった。

 今回作成したデータベースは、共通するデータも多いことから、日本乳癌学会だけでなく、日本人類遺伝学会、日本婦人科腫瘍学会の計3学会共同で管理していく方針だ。

 また、アジアにおけるHBOCのデータや知見を収集することを目的に、日本を含むアジア6カ国から構成されるAsia HBOCコンソーシアムに参加していることも報告した。

 中村氏は、所属する昭和大学における遺伝子カウンセリング実施状況から、40歳以下を対象にした場合のBRCA1/2の変異検出率が6.98%と、50歳以下、45歳以下、35歳以下で区切って検査した場合の検出率と比較して最も高かったことに触れ、「もし、BRCA検査対象を絞り込むことになった場合、40歳未満を対象に積極的に検査受診を呼びかけるのが一番最適ではないか」と提案した。

 また、BRCA検査や、遺伝子変異保持者への積極的な検査・治療が保険診療で認められていないことが大きな課題であると指摘した上で、「今回の班研究データをもとに、BRCA患者への検査・治療について、先進医療を申請し、将来的には保険適応につなげていきたい」と語った。