転移性乳癌(mBC)に対するアントラサイクリン系薬剤の使用状況について再評価した結果、アントラサイクリンは依然として選択されることの多い治療薬であることがわかった。過去5年間の単施設での研究と、多施設の医師へのアンケート調査から示されたもので、6月28日から熊本で開催された第20回日本乳癌学会総会で、千葉がんセンター乳腺外科の山本尚人氏が発表した。

 2001年以降、mBCに対する新規化学療法剤として、カペシタビン、S-1、ビノレルビン、ゲムシタビン、ナブパクリタキセル、エリブリンの6剤が使用可能で、タキサン系薬剤とともに、できるだけ多くの薬剤を順次使用することで患者の生存やQOL向上に寄与している。

 アントラサイクリンは、術前/術後に4〜6サイクル投与される薬剤で、新規薬剤の増加およびアントラサイクリンの副作用である心毒性に対する懸念から、現状では、再発乳癌治療においてアントラサイクリン以外の新規薬剤が選択される傾向にあり、山本氏らは、mBCにおけるアントラサイクリンの位置づけは曖昧となってきていると考えた。

 そこで、千葉がんセンターにおけるmBCに対するアントラサイクリン投与について、2007年1月から2011年12月までの5年間の使用状況を後方視的に調査した。また、mBC治療におけるアントラサイクリンの位置づけについて千葉県および愛知県の医療施設を対象にアンケート調査を行った。

 千葉県がんセンターでのアントラサイクリンの投与状況の解析では、対象となったのは全75例(Luminalタイプ53例、トリプルネガティブ9例、HER2陽性13例)で、平均年齢は52.3歳だった。

 再発例は46例。そのうちアントラサイクリン治療歴があるのは26例で、ステージIIIC、IV例は29例だった。

 術前・術後にアントラサイクリン治療歴がある26例の内、HER2陰性症例で、再発時に再度アントラサイクリンを投与 (リチャレンジ)したのは26%(5/19例)、術前・術後アントラサイクリン治療歴のない20例は全例がアントラサイクリン投与を受けていた(18/18例)。ステージIIIC、IVの29例においては、94.3%(HER2陰性25例中23例、陽性4例中4例)にアントラサイクリンが投与されていた。

 山本氏らはまた、mBCに対するアントラサイクリンの使用実態を把握するため、千葉県と愛知県の乳癌診療医(それぞれ140名と120名)に郵送でのアンケート調査を実施した。質問は15問で無記名式とした。回収率は42.7%(111/260)で、回答した医師の8割以上は10年以上の経験年数をもち、主に乳腺専門医、乳腺認定医、外科系医師だった。

 よく使用するアントラサイクリンの種類については、77%がエピルビシン、23%がアドリアマイシンと答えた。アントラサイクリンを最大耐用量まで使用した経験があるのは43%だった。また、31%の医師が、アントラサイクリンの副作用である心毒性を経験したことがあると答えた。

 治療方針について、術前後でアントラサイクリンが未治療だったHER2陰性乳癌(ステージIVも含む)で、全身状態PS0-2、年齢70歳以下、心機能異常なしの再発症例に対して、73%の医師が、アントラサイクリンを「ファーストラインで必ず使う」、または「セカンドラインまでに使用する」と回答しているのに対し、「副作用の面からなるべく使わない」「使用しない」は1割に満たなかった。

 同じ条件のHER2陽性乳癌に対しては、「抗HER2分子標的薬の前にファーストラインで使う」(32%)、または「抗HER2分子標的薬と他の抗がん剤との併用で病勢進行(PD)が認められたら2-4レジメン目で使う」(44%)という回答が多かった。「副作用の面からなるべく使わない(抗HER2療法で十分)」と回答したのは11%だった。

 アントラサイクリン既治療の場合で、再発後のリチャレンジについては、「ケースバイケースで使用する」との回答が67.71%を占めたのに対し、「使用しない」とする回答も24.25%見られた。

 県別には大きな相違はみられなかったが、アントラサイクリン未治療の、HER2陽性乳癌に対し、千葉県ではアントラサイクリンをファーストライン治療に挙げたが、愛知県では分子標的薬をファーストライン治療に挙げた。アントラサイクリンの副作用として、千葉県の医師は悪心嘔吐を多く挙げたのに対し、愛知県の医師は心毒性を挙げており、心機能評価もより積極的に行っていた。

 これらの結果から山本氏は、「mBC治療において、アントラサイクリンは、心毒性の懸念はあるものの、多くの化学療法剤の中で依然としてKey-drugの1つであることが示唆された」と結んだ。