第20回日本乳癌学会学術集会が、6月28日から30日の3日間、熊本市で開催される。会長を務める熊本市立熊本市民病院乳腺内分泌外科首席診療部長の西村令喜氏に、今回の学術集会開催にあたっての考えをうかがった。


──今回の学術集会のテーマを、「The Next Evolutionary Step Forward:今、踏み出す明日への一歩」とされました。このテーマに込められた思いをお聞かせください。

西村 今回の学術集会は第20回です。人間で言えば成人式を迎える歳であり、新たな一歩を踏み出す歳でしょう。

 乳癌は適切な治療を行えば予後が改善することが示されています。加えて、診療ガイドラインが世界中で共有され、グローバル化が進んでいる癌です。チーム医療が進んでいて、多領域に渡る医師、多くの医療専門職が関わり患者の治療を支えています。私が乳癌の診療や研究に携わり始めた当時からは想像もできない進歩です。

 また、乳癌学会は2007年に日本医学会に加わりましたし、近年、全国の大学に乳腺外科が相次いで設立され、教育も充実してきています。

 進歩し続ける乳癌領域ですが、今年“成人式”を迎え、乳癌診療そして乳癌学会が新たな一歩を踏み出していくための議論をしたいと思っていますし、新しい取り組みにもチャレンジしていきたいと思っています。

──学術集会の会期が3日間になりました。

西村 従来、学術集会の会期は2日間でしたが、昨年、仙台で開催された第19回学術集会は2.5日で、今年は2.7日となりました。

 乳癌診療においては、診断としてマンモグラフィーやエコーなどがあり、また病理検査もあります。手術も多様ですし、看護部門も議論すべきテーマが山積しています。医師のほか、多くの医療専門職それぞれが高い専門性を持って乳癌診療に携わっています。

 学術集会では、専門性をより深めていくとともに専門以外のことについても知る絶好の機会です。短い会期期間中に多くのセッションを詰め込むと、どうしても自分の専門にかかわるセッションしか聞くことが出来ません。他の専門職では何が新しく、何が課題で、どう解決しようとしているのか、などを知り、日常診療に生かしていくために、自分の専門以外のセッションを是非聞いて、学んで欲しい。そのため、会期を延長しているのです。

──なぜ乳癌治療には多くの医療専門職が参加するのでしょうか。

西村 乳癌患者の最大の特徴は若い方が多いことです。仕事をされている方もいるでしょうし、子育てをされている方もいるでしょう。社会的に重要な立場にいる方ばかりです。

 乳癌はバイオロジーを十分に評価すればしっかりとした治療方針が決まりますし、正確に診断を行うことが予後に直結することが明らかになりました。手術についても全摘を行うのか温存するのか、リンパ節はどの範囲まで郭清するか。ホルモン受容体やHER2などのサブタイプ別に適した化学療法は異なるなど、患者のさまざまな状態に応じてさまざまな治療の選択肢があります。そして適切に選択した治療であっても、大なり小なり患者のQOLに影響があるのも事実です。乳腺科(乳腺外科)の医師だけでなく、腫瘍内科や放射線科など診療科をまたがって十分に議論し、その上で選択肢を患者に提示するとともに、しっかりと説明する必要があります。また、治療を進める一方で、仕事や子育てにと忙しい患者に対し、有害事象のマネージメント方法を教えたり、精神的なサポートをしたりすることが必要です。

 患者やその家族は必死です。それに応えるには、医療者側に患者・家族の多様な疑問や悩み、質問に答えられる体制も必要で、がん相談支援センターのように、患者本人や家族が医師以外にも相談できる窓口を設けてサポートすることが大切です。

 だからこそ医療専門職の間で、お互いの仕事を把握し、理解していなければなりません。学術集会はお互いを知る上で絶好の場です。

──今学会で新たな試みをいくつか予定されています。

西村 乳癌学会では、治療について学ぶ教育セミナー、病理を学ぶセミナー、画像診断を学ぶセミナーがありますが、このうち画像診断セミナーのテーマとして新たに超音波(エコー)を加えました。エコーのセミナーは今回が初めてです。近年、エコーを診断に活用する事例が増えてきていますので、是非参加していただきたいと思います。

 また、今回は2日目の第7会場で行われるセッションは全て英語でのセッションとしました。一般演題やシンポジウムを行いますが、全て英語で行います。ただ、座長、演者、聴講者が日本人だけですとやりにくいので、2人の座長のうち、1人を韓国のドクターにお願いしています。

 薬剤師の方々向けにサテライトシンポジウムを行うことも初めてです。乳癌領域は新薬が続々と登場していますし、院外処方箋も増えてきています。病院薬剤師だけでなく、調剤薬局の薬剤師の役割もますます重要になっていくでしょう。患者も我々医師よりも声をかけやすいようです。乳癌診療の一翼を担っていただくために、多くのことを学んでいただけたら、と思っています。

 今年から臨床腫瘍学会との合同シンポジウムを行うことになりました。臨床腫瘍学会でも同様にシンポジウムを開催する予定です。薬物療法の専門性を高め合うことが目的ですが、何よりも、同じ患者を診たときにお互いが同じことを考え、同じ方向を向いて治療に取り組めるよう情報の共有をもっと進めていくための場となることを期待しています。

──学会全体のテーマとして、乳癌のバイオロジーを取り上げておられます。

西村 冒頭で述べたとおり、乳癌治療は、バイオロジーに基づき、適切な治療を選択することが重要であることが明らかになってきたからです。

 エビデンスに基づき、有効性が示された薬剤が多く登場している今でも、「これが癌に効く」というエビデンスの不十分な“治療”に患者が多額のお金を払うのは、抗癌剤治療では十分に効果が得られないと感じるケースが多かったからではないでしょうか。しかし、今から考えれば、それはその患者のバイオロジーに立脚していない治療だったからです。どの患者にも一律に同じ治療を行う時代は終わりました。バイオロジーに基づき、高い効果が期待できる治療を適切に選択して提示すれば、多少高額な治療であっても患者は納得して選択し、受療する時代となる日が近づいていると思っています。