第19回日本乳癌学会学術総会が9月2日から4日までの3日間、仙台市で開催される。震災の影響により2カ月遅れで開催される総会の会長を務める、東北大学病院がんセンター長の大内憲明氏に話をうかがった。


東北大学病院 がんセンター長
東北大学大学院医学系研究科
外科病態学講座腫瘍外科学分野
教授
大内 憲明 氏

――学術集会のテーマについてご説明いただけますか。

大内 今回の学術集会のメインテーマは「Challenge to the Future(未来への挑戦)」です。これは、乳癌から命を守るために今、どんな研究をどういうタイミングで開始すべきかを考えてくれないかということです。

 基礎的なデータを臨床に応用するためにはいくつかのステップがあり、最終的には臨床試験が必要です。確固たる基礎データに基づいて、それを臨床へと展開するための試験を組み立て、実際に行う。その結果が分かるまで5年、あるいは10年以上要する場合もあります。つまり、未来の医療のために、今、臨床試験を組むことなのですね。

 例えば、2009年にU.S. Preventive Task Forceが「40歳代の女性に対して、マンモグラフィを用いた定期的な乳がん検診を行うことを推奨しない」という勧告を発表しました。その10年前にはオランダのCochran reportでも同じようなことがあったのです。マンモグラフィ検診の限界がもうだいぶ以前から指摘されていながら、放置して来たわけです。

 その一方で、超音波がいいのだ、あるいはMRIがいいのだ、PET-CTがいいのではないかとか、いいと思うからやっているのだと皆さんおっしゃいます。でもそれには、根拠がどこにもないのです。がん検診に新しいmodalityを導入するためには、死亡率の減少効果を示さなければいけません。あるいは同等のエンドポイント、進行癌の罹患率を両群で比較するとか。そして5年から10年くらいあれば、ある程度の目処はつくはずです。

 ところが日本では今、大変失礼な言い方ですが、医師や研究者の思いこみで「よかれ」と思ってやっている。そしてそういう傾向が蔓延している。東京電力福島原子力発電所事故に関しても、そもそもデータがないのにそれぞれが勝手なことを言っているから混乱するのです。放射線被曝による健康被害に関しては、これから何十年と調査して、きちっとデータを出すことが世界に対する日本の責任ですよね。言わんとすることはそういうイメージです。

 特別講演ではAmerican Cancer SocietyのRobert A. Smith先生にお願いして、40歳代のマンモグラフィ検診についての議論を展開することになっていますが、そこにはこんな思いが入っています。

――先生は、乳がん検診における超音波検査の有効性を検証する、J-START試験を立ち上げていらっしゃいますね。

大内 超音波検査を併用する検診と併用しないマンモグラフィだけの検診を比較し、超音波検査で乳癌死亡率が下がるかどうかを検証する試験です。6年も前から動いていて、すでに8万人近い方がリクルートされています。健康な40代の女性が自ら参加してくださっている。こういう医学研究はこれまでなかったですよね。こういうことを突破口にして行きたいんです。

 乳癌は世界中で一番多い癌ですが、罹患率、死亡率がともに増えている国と、死亡率が減って、しかも罹患率も減っている国とに極端に分かれています。アメリカやイギリスでは罹患率も減っている。これはマンモグラフィ検診で見つかってくる非浸潤癌(DCIS)を癌とカウントせず、その段階で処置してしまうからですが、いずれにせよ死亡率が減っている最大の理由はマンモグラフィ検診です。

 乳癌の罹患率を年齢階級別に見ると、欧米では50歳以上が占める割合がはるかに高い。ピークが70歳代にあり、50歳未満は20%もありません。ところが日本では、50歳未満が40%強です。閉経後の脂肪性の乳房はマンモグラフィで癌が見つけやすいが、40代では乳腺もたくさん残っているので癌と区別が付けにくい。マンモグラフィはそこに限界があるのです。

 ただ、それだけではなく、欧米では検診受診率が高いんです。7割から8割、北欧では9割です。検診で早期に見つかるから予後がよく、死亡率も下がります。一方で日本での検診受診率はせいぜい31%。何をやっているのかと言いたい。

 例えば韓国では、2002年からマンモ検診が始まって10年も経っていないのに、受診率は昨年50%を超えたと言っていました。がん対策基本法も日本より早く2005年に制定され、同時に癌登録法も発効しています。日本は検診の受診率さえ把握できないのです。今回、日韓合同シンポジウムを企画したのは、国家的ながん対策について検討したい。それが理由の一つです。

 それから、アジアの乳癌について共通のガイドラインを作りませんかというのも、大きな目的です。欧米とは異なるポピュレーションについてのガイドライン作りを継続的に進めるための、きっかけにしたかったのです。10月にGlobal Breast Cancer Conference 2011が韓国で開催されますが、そこでも議論になると思います。

――プレジデンシャルシンポジウムでは、3つテーマが設定されています。

大内 まず「乳癌克服への挑戦」です。検診もその一つですが、診断も、治療も日々進歩していますので、複合的に議論しましょうということ。それから「非浸潤癌異型病変」ですが、これは私のライフワークです。超音波も検診に使うとなると、マンモグラフィでは分からないような新たな病変が見つかってきます。それをキチンと見極めて診断できる基準を作り処置してしまえば、癌化が防げるわけです。そこを詰めて欲しい。そして「Intrinsic subtypeと治療戦略」は、遺伝子診断を適応する対象の線引きが、いずれ必要になってくる。そこを整理して欲しいという思いから設定しています。


※ 最新の厚生労働省のデータ、「平成22年国民生活基礎調査におけるがん検診の受診状況について」http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001igt0.html では、31.4%。
ただし、市町村事業によるがん検診の年次データである「平成20年度地域保健・健康増進事業報告の概況」http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/08/dl/date03.pdf  では、14.7%となっています。