2009年11月に、米国予防医学特別作業部会(U.S. Preventive Services Task Force:USPSTF)はガイドラインを改訂し、40〜49歳の女性に対するマンモグラフィによる定期的な乳癌検診を、「推奨B:推奨利益は中程度」から「推奨C:推奨しない、実施には個々人に対し考慮が必要」に引き下げた。これに対し、米国では患者団体などが猛反発し、大きな議論が起こった。日本でも新聞などがこの問題を取り上げ、関心を集めた。

 東京慈恵会医科大学乳腺・内分泌外科の内田賢氏は、6月24、25日に札幌で開催された第18回日本乳癌学会学術総会で、「マンモグラフィ検診には死亡率15%減というメリットがあるが、USPSTFは偽陽性や偽陰性などのデメリットを重視した可能性がある。これらは秤にかけられるものではないが、日本でも検診の不利益を受診者に正確に伝える努力は必要だろう」と述べた。

 この議論に関し、日本乳癌検診学会は2010年5月に、「USPSTFの改定は科学的根拠に基づいたおおむね適切なものであるが、米国のデータに基づいた判断であり、日本にそのまま適用することはできない。わが国では科学的根拠に基づいた推奨度の改訂を行うまでは、当面現行の推奨を継続することが妥当である」との見解を示している。

 米国では、年間4万人が乳癌で死亡しており、乳癌は肺癌に次いで多い。70%の女性がマンモグラフィ検診を受けている。

 40〜49歳のマンモグラフィによるルーチンスクリーニングについては、メタアナリシスで15%の乳癌死亡率の減少が確認されている。一方、被爆や検査時の疼痛・不安、偽陽性や偽陰性というデメリットがある。

 内田氏は、USPSTFの改訂はこれらのうち、不利益の方を重視した可能性があると指摘。米国で1996年〜2006年に行われたマンモグラフィ検診を行った約360万3800人についての調査報告において、60〜69歳の検査では感度が80%程度、要検査率が8%程度だったのに対し、40〜49歳の検査では感度は70%程度、要検査率が10%程度だったことを紹介した。

 出産能力がある年代の女性では、乳腺が発達しているため、マンモグラフィで乳腺と乳癌を見分けることが難しく、擬陽性・偽陰性の率が高い。そのため現在、40歳未満の女性には、マンモグラフィは推奨されていない。40代、50代と年を経るに従って乳腺は衰えて検査は行いやすくなるが、40〜49歳の女性におけるマンモグラフィによる検診には議論がある。

 内田氏は、最も大きな問題として偽陽性を挙げ、頻度は0.9〜6.5%であること、10年累積では40〜49歳で56%にも上ること。40〜49歳では1000人中84.3人が追加の画像診断を行い、1000人中9.3人が生検を行っていることを紹介した。

 さらに、年間女性1000人中0.07〜0.7人存在する過剰診断についても言及。非浸潤性乳管癌(DCIS)は乳癌死亡率に影響を与えないこと、検診で見付かる癌のうち非浸潤癌は3割程度を占めること、DCISが浸潤癌になるには10年ほどかかることなどから、あまり早期に発見しても乳癌の死亡率の減少には結びつかないという公衆衛生の立場での意見があることを紹介した。

 内田氏は、「USPSTFは今回の改訂で、いろんな議論が起こることを望んだのではないか。また、Recommendationは経済状況を反映している可能性がある。個人的には、15%の死亡率減少という利益は、被爆や疼痛、不安、偽陽性、偽陰性、過剰診断などの不利益に勝ると考えるが、特に偽陽性と過剰診断の不利益と死亡率減少とをどのように重み付けるかは種々の立場で様々な考えがある。今後は日本でも検診の偽陽性、偽陰性の問題点を受診者に周知していくべきだろう」との考えを述べた。