会長を務める札幌医科大学外科学第一講座教授の平田公一氏

 第18回日本乳癌学会学術総会が6月24日と25日の両日、札幌市内で開催される。大きく変わりつつある乳癌治療の最前線の研究結果が報告される。会長を務める札幌医科大学外科学第一講座教授の平田公一氏(写真)に乳癌領域のトレンドをうかがった。


―― 乳癌におけるトレンドとして、どのようなものが挙げられますか。

平田 キーワードとして挙げられるのは、チーム医療、患者さんに優しい医療、個別化医療、分子標的治療、分子診断だと思います。

 悪性腫瘍を治療する場合、手術治療、薬物療法、放射線治療などいろいろな選択肢があります。特に、エビデンスに則った選択肢の多いのが乳癌治療だと思っています。この選択肢の中から、患者さんの腫瘍の特徴に合ったものを選ばなければいけません。そのためには、まず、患者さんの乳癌の特徴をしっかりと捉えること、そのための診断が大切になります。肉眼、画像による診断、病理学的な診断、さらには分子診断も行われるようになって来ました。また、乳癌の多くはホルモン依存性の腫瘍ですから、閉経前か閉経後かという情報も大切です。患者さんの乳癌の特徴を総合的に把握することによって、適切な乳癌治療がおのずから選択されていきます。

 さらに最近では乳癌になりやすい人、なりにくい人に分けられるということも、ある程度判明しつつあります。乳癌になりやすい遺伝子変異をお持ちの方は、日本人にはあまりいないのではないかと言われてきたのですが、そうではなく、日本人でもある程度いらっしゃるということが分かってきました。この遺伝子の診断が可能になりつつあります。また、患者さんに薬物療法や放射線治療などの適切な選択を可能にする遺伝子診断も登場し始めました。完成されたものではなく、まだ一般診療には利用されているとは言えませんが、2社ないし3社からすでに診断キットが出されています。この状況から、乳癌のスクリーニングにマンモグラフィーだけではなく、遺伝子診断も含めるべきかという問題も顕在化しつつあります。

―― 今回の学会のテーマ「Heart and Science――多様性の認識、本質の追及――」に込められた思いは何でしょうか。

平田 「Heart」は、チーム医療と患者に優しい医療という意味に帰結できます。学会の対社会的意識としては、チーム医療は基本になってきていなければいけないと思っています。

 ただし、みんなで仲良く一定の知識を共有し合うということだけでは課題が残ります。そこで「Science」です。

 日本で現在、やや不十分とされていることの1つにチーム医療の中から日本人に合った臨床試験、臨床研究を推奨しようとの意識・コンセンサスがあまり登場してきていない点があり懸念しています。かつてゲフィチニブが肺癌で使われたときに、日本人や東アジアの人種、特に女性には副作用が出やすいという特徴があることが問題になりました。同じ薬剤でも、効果や副作用には民族差があります。日本人特有の臨床研究、臨床試験もしなければいけません。また、新しい標的分子を日本人の研究者が見つけた場合、日本人で、あるいはアジアの方々と一緒にスクラムを組んで臨床研究をするということが、少し欠けていると思います。すなわち、医療者と患者さんとで未来へ向かおうとする日本の独自路線がないということです。日本はサイエンス国家であると自負してきたのに、そのようなことからも昔に比べると国際競争力がだんだんと落ちてきていると私は思います。

 「Science」に込めた思いは、若い先生方もただ欧米の薬を使って満足しているだけではなく、もう少し日本独自のものを発信すべく研究しなければいけない、また、自信を持って外国に行ける人を育てていかなければいけないということです。

 40歳代の人たち、50歳代の人たちの研究リーダーには、若い時代に独自の研究を数多くこなされた方がいらっしゃるので、現在は外国に比べて対外的にはある程度のScienceとしての地位を維持していると思っています。しかし、20歳代、30歳代に独自の研究を永続的に行うような、いわゆる光輝く方を多く輩出しないといけないと思います。輝く方が大勢いて、仲間で良い競争をしていかないと、他の成長も生じません。

 独自の臨床研究を発展させようと熱意を持っているリーダーは揃っていると思います。ところが、その研究のベースを支える若い世代の方に熱い志望を持っている人が少ない世の中となっています。製薬企業もいろいろサポートしてくれることで、自分が優秀な医者になっているつもりでは寂しいものがあります。すべての日本の事象に当てはまることですが、できあがったものをただ使わせていただいているということでは、何らオリジナリティもない社会といえ成長はしません。若い人の持っている能力を十分に発揮できる社会作りが先ずは大切と思います。会長講演ではこの点を訴えたいと思っています。