乳癌の骨転移を痛みなどの症状がまだない時期に診断できれば、骨関連事象を指標としたQOLの向上と死因別死亡を指標とした予後に寄与できる可能性がある。7月3日から4日に東京で開催された第17回日本乳癌学会学術総会で、放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの小泉満氏が発表した。

 さまざまな乳癌診療ガイドラインでは「手術後に症状がない場合、転移の有無を見るための骨サーベイは推奨されない」として、現時点では腫瘍マーカー、骨シンチグラフィ(以下、骨シンチ)、MRI、PET、超音波などの検査を無症状の患者に行うことは、役に立たないとされている。とはいうものの、骨転移は術後に毎年数%ずつ、術後15年以上経過しても発生しているのが現状だ。

 それでは、乳癌の骨転移検出の目的で過去に行われていた骨シンチは役に立たなかったのだろうか? 小泉氏は将来に向けて何らかのメッセージが得られないかと考え、骨サーベイをルーチン検査として行っていた時期における、骨転移発見時の痛みの有無が、骨関連事象(skeletal-related event:SRE)を指標とするQOLと死因別死亡(cause specific death:CSD)を指標とする予後に関連していたか否かを検討した。

 対象は、小泉氏が以前に勤務していた癌専門病院で1988〜1998年に手術を受けた乳癌患者5423人を2006年末まで追跡調査し、この間に骨転移が確認された668人。

 骨関連事象は、放射線治療、病的骨折、脊髄麻痺、整形外科的手術、高カルシウム血症、麻薬の使用とした。分析に用いた説明因子は、「痛み」「腫瘍マーカーのCEAとCA15-3」など。エンドポイントは、SREとCSD。

 痛みの有無が不明な2人を除いた666人中、骨シンチが行われた理由で最も多かったのはスクリーニング396人(59.5%)で、このうち全く症状がなく定期検診だった患者は201人(30.2%)、「CEA やCA-15が上昇していたため」が195人(29.3%)で、「痛みのため」が270人(40.5%)だった。「(腫瘍マーカーの上昇は)痛みと同程度にも満たない精度でしか骨転移が検出できていないのではないか」と小泉氏は指摘した。

 痛みのあった患者となかった患者に分けてSREの各事象をCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析でみると、ハザード比は2.267(95%信頼区間:1.877〜2.737)に上昇することが示された。CSDについてもハザード比は1.44(95%信頼区間:1.21〜1.72)に上昇した。これらの解析から、「骨転移診断時に痛みがあることは、SREを指標としたQOLおよびCSDを指標とした生存の双方において、独立した危険因子」と小泉氏は説明した。

 Kaplan-Meier解析でもSREおよびCSDは痛みのなかった患者に少なかった。また、早期に診断されることによる見かけ上の事象までの期間が長くなるというバイアスを除外するため、解析起点を最初の手術日として再度Kaplan-Meier解析を行っても、SREの発生は痛みのなかった患者で有意に少なかった。CSDも痛みのない時期に診断できた患者で少なかった。

 今回の解析結果は乳癌手術後の従来の骨サーベイが推奨できることを直ちに示すものではないが、ある程度の臨床的意義はあったと考えられる。現時点ではスクリーニングが正当化される明らかな証拠はないが、小泉氏は、骨転移の検出技術の進歩や骨転移治療の進歩などにより、将来ガイドラインが変わる可能性もあると示唆した。