2007年11月に「エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン」(胆道癌診療ガイドライン作成出版委員会編[第1版])が出版されてから5年が経過した。この間に新たな知見の蓄積が進んだことから、同ガイドラインの作成委員会委員長を務める千葉大学臓器制御外科学の宮崎勝氏のもと、現在改訂作業が進められている。9月20日から東京都で開催された第48回日本胆道学会学術集会の「胆道癌診療ガイドライン」公聴会では、第2版における改訂のポイントのうち、公聴会までに討議が終了した項目を中心に紹介された。

GRADEシステムを用いてCQの推奨と解説を作成

 公聴会の最初に登壇した宮崎氏は、最初に、2008年に出版された第1版の英語版について、その後発表された胆道癌関連のさまざまな論文における引用回数を示した。引用回数が最も多かったのは「外科治療」の49回で、「ドレナージ」の22回、「化学療法」の22回がこれに次いだ。日本のガイドラインが世界各国で参考にされている証といえる。

 第2版の作成にあたり、作成委員の構成が見直され、内科系の委員を増やすとともに、放射線治療、病理、ガイドライン作成の専門委員が新たにメンバーに加わった。第1版では外科14名、内科3名、放射線科1名の計18名だったが、第2版では外科17名、内科6名、放射線科2名、病理2名、ガイドライン作成の専門委員1名の計28名で構成されている。

 宮崎氏は今回の改訂にあたり、GRADEシステムを導入し、クリニカルクエスチョン(CQ)の推奨と解説を作成している点をあげた。このシステムでは、従来の論文のエビデンスレベルだけでなく、RCTや良質な観察研究などでは、レート・ダウンの5因子(研究の限界、結果の非一貫性、External biasesの非直接性、結果が不精確、出版バイアス)とレート・アップの3因子(関連性、交絡因子のために効果が減少、用量反応勾配)を加味し評価する。一般にエビデンスレベルが高いとされている大規模な臨床試験の結果がない場合、ガイドラインでは曖昧な表現での推奨にとどまってしまうことが多いが、GRADEシステムを用いれば、臨床試験や研究の規模が小さくてもその“質”を評価した上でガイドラインに反映することができる。

 第1版では推奨度がAからDまでの5段階(CはC1とC2)で示され、Cについて「わかりにくい」との指摘が多かったことを考慮し、第2版では「1 “実施する”ことを推奨する」、「2 “実施する”ことを提案する」、「3 “実施しない”ことを提案する」、「4 “実施しない”ことを推奨する」の4段階とした。各CQに対するGradeの判定については、パネリストから70%の合意が得られるまで討議を続けることとしている。

 宮崎氏は「2012年末に改訂案の最終版が作成できるよう、作業を進めている」と述べた。

病理の観点から2つのCQを新たに追加

 次に、金沢大学形態機能病理学の中沼安二氏が、病理の観点から新たに加わる2つのCQについて解説した。

 CQ40「胆道における早期前癌病変にはどのようなものがあるか?」に対する推奨は、「Biliary intraepithelial neoplasia(BilIN)と胆管内乳頭状腫瘍(IPBN)は胆管癌の前癌病変である。胆嚢粘膜上皮ディスプラジアは胆嚢癌の前癌病変である。十二指腸乳頭部腺腫は十二指腸乳頭部癌の前癌病変である」とされる予定である。

 また、CQ41「胆道における腫瘍類似病変にはどのようなものがあるか」に対する推奨は、「胆道における腫瘍類似病変には、(A)硬化性胆管炎(胆嚢癌との鑑別)、(B)黄色肉芽腫性胆嚢炎、(C)胆嚢腺筋腫症(胆嚢癌との鑑別)などがあげられる」とされる予定だ。

胆道ドレナージの方法と時期を具体的に推奨

 名古屋大学腫瘍外科学の梛野正人氏は、胆道ドレナージのCQについて解説した。

 梛野氏が「最も大きな変更」としたのが、CQ12「術前胆道ドレナージの適切な方法は何か、またいつ行うべきか?」である。第1版の推奨は「閉塞部位にかかわらず、経皮経肝的、内視鏡的、観血的ドレナージのいずれを用いてもよい」だったが、第2版ではより明確に、「経皮的経路によるドレナージには穿刺に伴う特有の合併症発生の可能性があり、内視鏡的(経乳頭的)減黄処置が第1選択として推奨される。また、ドレナージは緊急時を除いてMDCTの後に行うべきである(推奨度:Grade 2 エビデンスレベル:C)」となる。

 また、CQ11「黄疽を有する患者に術前胆道ドレナージは必要か?」に対し、第1版の推奨は「胆管炎、広範肝切除予定例は術前減黄術が必要である(推奨度B)」だったが、第2版では「広範肝切除を予定する胆道癌では術前減黄術を施行する(推奨度:Grade 1 エビデンスレベル:C)」に変更される。

 CQ13「肝門部悪性閉塞に対する術前胆道ドレナージは、片側肝葉か両側肝葉ドレナージか?」、CQ14「胆道ドレナージ後の発熱の対応は?」、CQ15「術前外瘻ドレナージ患者における胆汁監視培養の意義は?」についても、第1版の推奨および推奨度、解説に変更・追加が加えられる。

 また、切除不能例に対するCQとして、CQ17「切除不能例に胆道ドレナージは推奨されるか?」、CQ18「切除不能例に胆道ステントとして何が適切か?」も新たに追加される。

外科治療−切除不能の定義と術前門脈塞栓術の適応がより明確に

 東北大学外科病態学講座消化器外科学分野の海野倫明氏は、担当する外科治療の7つのCQのうち、討議が終了した2つのCQを中心に解説した。

 CQ19「切除不能な胆道癌はどのようなものか?」に対し、第1版の推奨は「肝、肺、腹膜転移、遠隔リンパ節は切除不能(推奨度B)。局所進展因子については明らかなコンセンサスがない」だった。第2版ではより明確に記載され、「肝転移、肺転移、骨転移、腹膜播種、遠隔リンパ節転移(明らかな傍大動脈周囲リンパ節、腹腔外リンパ節などの転移)を伴う胆道癌は切除を行わないことを推奨する(推奨度1 エビデンスレベルC)」となる。海野氏は「RCTが存在しないため、エビデンスレベルは高くないが、ほぼコンセンサスが得られているのではないかと考えられる」と説明した。ただし、局所進展については「切除可能か否かについては明らかなコンセンサスはない」とされる。

 また、CQ20「肝切除を伴う胆道癌症例において術前門脈塞栓術はどのような症例に行うべきか?」に対し、第1版の推奨は「術前門脈塞栓術を考慮してよい(推奨度C1)」だったが、第2版では「右葉切除以上あるいは50-60%以上の肝切除を予定している胆道癌症例に術前門脈塞栓術を施行することを提案する(推奨度:Grade2 エビデンスレベルC)」となる。

 CQ21「黄疸肝において残肝予備能の有効な指標はあるか?」、CQ25「胆嚢癌を疑う症例に対しては腹腔鏡下胆嚢摘出術ではなく開腹胆嚢摘出術を行うべきか?」などについては、今後討議される。

外科治療−尾状葉合併切除、血管合併切除の適応がより明確に

 最後に静岡県立静岡がんセンター肝胆膵外科の上坂克彦氏が、担当する外科治療の6つのCQのうち、討議が終了した3つのCQを解説した。

 CQ22「肝門部・上部胆管癌に対し尾状葉合併切除は行うべきか?」に対し、第1版の推奨は「多くの肝門部胆管癌において尾状葉合併切除は有用な可能性がある(推奨度C1)」だった。第2版では「肝門部・上部胆管癌に対しては、尾状葉切除を含む肝切除を行うことで治癒率の向上および予後延長が期待されるため、原則的に行うべきである(推奨度:Grade 1 エビデンスレベル:B)」に変更される。

 CQ23「血管浸潤例に対して血管合併切除は行うべきか?」に対し、門脈浸潤例に対する第1版の推奨は「門脈合併切除例は切除不能例に比較すると有意に予後は良好であり、門脈合併切除は有用な可能性がある(推奨度C1)」だった。第2版では「門脈合併切除例は、切除不能例に比較すると有意に予後は良好であり、門脈合併切除は有用である可能性がある(推奨度:Grade2 エビデンスレベル:C)」に変更される。肝動脈合併切除については第2版では「臨床的意義は、現段階では不明確である」とされ、推奨度は記載されない。

 CQ24「胆道癌切除後の予後因子はどのようなものか?」に対し、第2版では第1版の推奨にさらに説明が加えられ、「胆管切離断端および剥離面での癌遺残の有無、リンパ節転移の有無、神経周囲浸潤の有無および門脈・肝動脈への浸潤による血管合併切除の有無などがあげられる。ただし、胆管切離断端における癌遺残には癌浸潤陽性と上皮内癌陽性とがあり、浸潤癌陽性の場合は予後不良であるが、上皮内癌の場合は晩期局所再発のリスクはあるものの短期予後は比較的良好である」とされる。推奨度は記載されない。

 今回の改定案におけるCQの解説と推奨文は、10月をめどに日本肝胆膵外科学会のホームページ(http://www.jshbps.jp/)でも公開され、同ホームページからパブリックコメントを求める予定であるという。

 また、この公聴会では紹介されなかったが、化学療法についても検討が進められている。第1版では、切除不能進行胆道癌に対し「ゲムシタビンまたはS-1の有用性が期待できる可能性がある(推奨度C1)」とされていたが、第2版では「ファーストラインの化学療法としては、ゲムシタビンとシスプラチン併用療法が推奨される」が推奨度1、エビデンスレベルAで記載される予定である。