日本人の肺癌患者を対象としたレトロスペクティブな解析から、血清鉄の値は、高度催吐性化学療法(HEC)および中等度催吐性化学療法(MEC)により顕著に上昇し、化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)と密接に関連する可能性が示された。10月27日から30日までオーストラリア・シドニーで開催された第15回世界肺癌学会(WCLC2013)で、日本医科大学多摩永山病院呼吸器・腫瘍内科の宮敏路氏が発表した。

 コルチコステロイド、5HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬などによる制吐療法が導入されてもなお、CINVは患者のQOLを低下させる化学療法の主な有害事象である。制吐療法は制吐療法診療ガイドラインのリスク分類に従って行う必要があるが、急性期と比べて遅発期のCINVでは治療効果が低く、遅発期のCINVのメカニズムは不明である。

 輸血を行った症例や鉄のサプリメントの過剰摂取による鉄中毒では、遊離鉄によって引き起こされる悪心、嘔吐、胃腸炎などのさまざまな症状(フェントン反応)を呈する。

 宮氏らは、これらの症状は癌の化学療法の有害事象と類似し、CINVは化学療法を受ける患者の血清鉄の値と関連する可能性があるとの仮説をたて、レトロスペクティブな解析を行い、検討した。

 対象は、細胞傷害性薬剤による化学療法を受けた肺癌患者で、化学療法の施行前・2日目・8日目の血清鉄、不飽和鉄結合能(UIBC)、フェリチンの値が入手可能な患者とした。化学療法のレジメンはすべて、国内で保険適応となっている標準的なレジメンだった。化学療法のレジメンを、ASCOのガイドラインに従ってHEC、MEC、軽度催吐性化学療法(LEC)に分類し、血清鉄の値とCINVの関連を検討した。

 計37人が対象となり、このうち女性は11人、年齢中央値は66歳だった。HECは18人、MECは14人、LECは5人に行われていた。レジメンの内訳は、HECでは全例がシスプラチン+エトポシド、MECでは、カルボプラチン+ゲムシタビンが5人で最も多く、その他、カルボプラチン+パクリタキセル、カルボプラチン+エトポシド、カルボプラチン+ペメトレキセド、イリノテカン、アムルビシンだった。LECでは全例がペメトレキセドだった。

 血清鉄の平均値は、HECおよびMECにおいて、化学療法施行前と比べて2日目と8日目に顕著に上昇していた。HECでは、それぞれ64.6±42.0μg/dL、233.5±50.0μg/dL、235.5±41.3μg/dL、MECではそれぞれ62.8±17.0μg/dL、224.3±33.0μg/dL、175.7±87.6μg/dLだった(それぞれp<0.01)。LECでは化学療法開始前の54.6±17.3μg/dLから、2日目に116.4±36.6μg/dLに上昇したが、8日目には正常範囲の40.7±33.5μg/dLに低下した。

 一方、UIBCの平均値は、HECとMECにおいて、化学療法施行前と比べて2日目と8日目に有意に低下しており、遊離鉄が化学療法施行中に出現したことが示唆された。HECでは、それぞれ194.4±48.8μg/dL、20.0±193.2μg/dL、12.0±7.4μg/dL、MECではそれぞれ200.1±37.4μg/dL、8.0±5.7μg/dL、67.3±72.9μg/dLだった(それぞれp<0.01)。LECでは有意な低下は認めず、それぞれ203.3±75.9μg/dl、126.4±77.7μg/dL、174.7±24.2μg/dLだった。

 フェリチンの値には、化学療法施行前、2日目、8日目で有意な変化は認めなかった。

 宮氏は「今回認められた現象は、制吐療法の新たなアプローチの手がかりとなる可能性がある」と結んだ。