手術可能なHER2陽性乳癌に対する術前化学療法で、従来療法であるweeklyパクリタキセル+トラスツズマブにラパチニブを追加すると、従来治療群よりも病理学的完全奏効(pCR)率が上昇する傾向が確認されたが、その上昇は有意なものではないことが明らかとなった。これはNSABP B-41試験の結果から示されたもので、National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Projectを代表してAndre Robidoux氏が、6月1日から米国Chicagoで開催されている第48回米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)で発表した。

 HER2陽性乳癌患者への術前化学療法としては、AC療法(ドキソルビシンとシクロホスファミド)後にweeklyパクリタキセルとトラスツズマブを併用するのが標準的な療法となっている。

 NSABP B-41試験の目的は、標準的な術前化学療法であるAC療法後のweeklyパクリタキセル+トラスツズマブに対してラパチニブを追加した場合、またはトラスツズマブをラパチニブに置き換えた場合に、pCR率が改善するかについて検討すること。また、3つのレジメン間でリンパ節転移陰性患者におけるpCR率、心毒性、臨床学的完全寛解などに違いがあるかについても検討した。

 試験の対象は、触診による腫瘍の大きさが2cm以上、左室駆出率が50%以上でHER2陽性(FISH陽性またはIHC3+)、コアニードル生検により診断した手術可能な乳癌患者。術前化学療法として(1)AC療法後にweekleyパクリタキセル+トラスツズマブ(以下、トラスツズマブ群、178人)(2)AC療法後にweeklyパクリタキセル+ラパチニブ(ラパチニブ群、173人)(3)AC療法後にweeklyパクリタキセル+トラスツズマブ+ラパチニブ(トラスツズマブ+ラパチニブ群、173人)の3群にランダムに割り付けた。その後、手術を行い、術後にはトラスツズマブを1年間投与した。
 
 AC療法(ドキソルビシン60mg/m2とシクロホスファミド600mg/m2、21日おき)を4コース実施後にweeklyパクリタキセル療法(80mg/m2、1、8、15日目)を28日1サイクルとし、4サイクル行った。トラスツズマブ投与は術前1週間前まで行い、ラパチニブは手術前日までに毎日1250mgを投与した。トラスツズマブ+ラパチニブ群では、トラスツズマブ投与は術前1週間前まで行い、ラパチニブは手術前日までに毎日750mg投与とした。

 主要評価項目は、pCR率、心疾患イベント、無増悪生存期間(DFS)、全生存期間(OS)。

 2007年7月16日から2011年6月30日までに529人の患者を登録した。患者背景は、40歳未満が18%、40から49歳が34%、50から59歳が33%、60歳以上が15%。腫瘍サイズは2-4cmが43%、4cm以上は57%。白人が85%、リンパ節転移陽性は51%、ホルモン受容体陽性患者は63%を占めた。

 追跡の結果、主要評価項目のpCR率は、トラスツズマブ群が52.5%、ラパチニブ群が53.2%(p=0.99)、トラスツズマブ+ラパチニブ群が62.0%(p=0.095)となり、標準治療群であるトラスツズマブ群と他の2群との間の差は有意ではなかった。

 ホルモン受容体の状態別にpCR率を見ると、ホルモン受容体陽性グループにおいては、トラスツズマブ群が46.7%、ラパチニブ群が48.0%、トラスツズマブ+ラパチニブ群が55.6%。ホルモン受容体陰性グループのpCR率はトラスツズマブ群が65.5%、ラパチニブ群が60.6%、トラスツズマブ+ラパチニブ群が73.0%となり、ホルモン受容体の状態に関わらず、トラスツズマブ群と他の2群との間に有意な差は見られなかった。

 臨床学的完全寛解率は、トラスツズマブ群が82.0%、ラパチニブ群が69.9%、トラスツズマブ+ラパチニブ群が76.8%で、有意差は見られなかった。

 試験計画とは別に、IHCの発現レベルによるpCR率の違いを探索的に検討した結果、IHCが0+から2+までの患者のpCR率は、トラスツズマブ群が41.7%、ラパチニブ群が60.9%、トラスツズマブ+ラパチニブ群が25.0%で、標準治療群との間に有意差は見られなかった。一方、IHC3+の患者のpCR率は、トラスツズマブ群が54.7%、ラパチニブ群が53.2%、トラスツズマブ+ラパチニブ群が71.0%で、トラスツズマブ群とトラスツズマブ+ラパチニブ群間で有意差が認められた(p=0.006)

 プロトコールで定めた通りに術前化学療法を施行可能だった例は、トラスツズマブ群が78%だったのに対して、ラパチニブ群は68%、ラパチニブ+トラスツズマブ群は63%で有意に少なかった。

 有害事象については、トラスツズマブ群に比べて、ラパチニブ群、トラスツズマブ+ラパチニブ群はグレード3、4の有害事象が多い傾向にあり、特に下痢についてはラパチニブを含む2群で有意に多かった。

 これらの結果からRobidoux氏は、「HER2を標的にしたトラスツズマブとラパチニブの併用療法は、HER2を直接標的とするトラスツズマブによる治療よりもpCR率を改善したが、有意差が見られなかった」としたほか、トラスツズマブをラパチニブに置き換えた場合、ホルモン受容体の発現状態に関わらず、同様に高いpCR率が得られたとした。また探索的な検討の結果から術前化学療法における抗HER2療法は、IHCでたんぱく質の過剰発現が確認された患者で最も有効である可能性が高いと指摘した。