一定の基準を満たしている低リスクの前立腺癌においては、経過観察下で病状進行の兆しが見られてから手術を行っても、すぐに手術を行った場合と比較して術後の病理結果に差はない。米Johns Hopkins School of MedicineのBruce J.Trock氏が、6月4日から8日までシカゴで開催された第46回米国臨床腫瘍学会(ASCO2010)で発表した。

 前立腺癌の拾い上げが進む一方で、低リスクな前立腺癌への過剰治療が問題になっている。最近、過剰治療を減らすための一つの選択肢として、癌がハイリスク状態に進行していないかを定期的に確認し、リスクが高くなってから治療を行うActive surveillance(AS:国内では監視療法)が注目されている。
 
 Trock氏らは、遅れて治療を行うことで治療結果に不利益をもたらしていないかどうかを評価するため、ASを選択して適性基準を外れた時に前立腺全摘術を行った群(AS群)と、本来はASの適応であるもののすぐに前立腺全摘術を行った群(対照群)とで、手術標本の病理結果を比較した。

 対象は、低リスクの前立腺癌患者。Johns HopkinsのActive Surveillance Programの適性基準に従い、生検でグリソンスコア6以下、陽性コア本数2本以下、癌を検出したコアがいずれも50%以下、PSA density<0.15とした。

 年2回のPSA、%free PSA検査と年1回の再生検(12コア)を行い、適性基準のいずれかが外れたら手術を勧めることとした。

 1995年から、772人をASプログラムに登録し、そのうち116人(15%)がASの適性を外れて、後に前立腺全摘術を受けた。手術までの期間の中央値は23カ月(6-103カ月)だった。一方、対照群として、ASの基準を満たすもののすぐに前立腺全摘術を受けることを選択した348人を抽出した。

 主要評価項目は、手術標本によるグリソンスコアとステージとした。ただし、初回生検時にはかなりの過少評価(サンプリングエラー)があることから、AS群では、初回の生検で見逃されていたハイリスクな癌が混じり対象者にバイアスがかかるため、手術の契機となった要因ごとに分けて分析することとした。

 その結果、まずAS群全体では、すぐに手術を行った対照群と比較して、前立腺非限局の癌がより多く見られた(27%、16%、p=0.023)。また、グリソンスコア≧7の割合が有意に多く(44%、22%、p<0.001)、これはサンプリングエラーの影響と考えられた。

 しかし、AS群のうちフォローアップ中の再生検でグリソンスコアが7以上にアップグレードした43人を除いて、それ以外の要因でアップグレードしたAS群(67人)と対象群(348人)の比較を行うと、術後の病理所見に差はなかった。グリソンスコア≧7はAS群で25%、対照群で22%(p=0.29)、前立腺非限局癌は、23%、16%(p=0.37)だった。

 手術までのAS期間は、手術時のグリソンスコアが7未満の群で31.1カ月、7以上の群で30.6カ月であり(p=0.86)、AS期間は病理学的な病状進行とは関連がなかった。

 また、全AS群を追跡すると、年間にグリソンスコア7以上になるリスクは4.5%/年、臓器非限局性になるリスクは1.2%/年。「全体として、手術標本の病理学所見が悪化するケースは少なかった」(Trock氏)。

 「本試験では、AS群全体では対照群と比べて病理結果が悪かったが、そこには対象者のバイアスがあり、より高いリスクとなった人の多くは初回生検時の過小評価によるものだと考えられた。今後は、より長期にフォローアップし、生存率の評価も必要だ」とTrock氏は話している。

 米国では、低リスク癌の10%程度にASが実施されている。日本国内でも、監視療法はガイドラインにおいて低リスク癌の場合の一つの選択肢になっているが、選択されるケースはまだ非常に少ない。

 この発表について香川大学泌尿器科学教授の筧善行氏は、「今回の報告から、複数回の再生検で一貫してグリソンスコア6を維持している患者はASが安全に行えることが示唆された。さらに、ASを安全に実施していくためには、定期的な再生検が必須であることが改めて示され、国内でも再生検の重要性に対する認識は上がるのではないか」とコメントした。

 2010年から、新たに欧州で前向き観察介入研究「PRIAS」が開始されており、日本もPRIAS-JAPANとして参加。すでに国内30施設が登録を進めている。