早期の原発乳癌に対しては、全例手術を行うのが標準治療になっている。だが、ホルモン受容体(HR)陰性でHER2陽性の患者など一部の対象においては、術前化学療法の後に放射線治療を追加することで、手術を行わなくても済むようになるかもしれない。

 国立がん研究センター東病院化学療法科の向井博文氏らは、術前化学療法の後に放射線治療を行う治療スケジュールの安全性と有効性を検証し、将来手術を省略できそうな対象群を模索するためのフェーズ2臨床試験(JCOG0306)を実施。6月4日から8日までシカゴで開催されている第46回米国臨床腫瘍学会(ASCO2010)のポスターセッションでその最終結果を発表した。

 対象は、組織診で浸潤性乳癌と診断された臨床病期I〜IIIA期の早期乳癌患者。腫瘍径は2.0〜5.0cmで、performance statusは0または1とした。2004〜05年の登録期間で108人が登録(ステージI:1人、IIA:52人、IIB:51人、IIIA:4人、IIIB:0人)。平均年齢は50歳(23-69歳)だった。 62%(67人)はホルモン受容体(HR)陽性、31%(34人)はHER2陽性だった。

 術前化学療法としては、AC療法4コース(ドキソルビシン60mg/m2とシクロホスファミド600mg/m2)の後にweeklyパクリタキセル療法(80mg/m2)を12コース行い、その後続けて放射線治療(45Gy+追加10Gy)を行った。化学放射線治療を完遂してから12〜16週間後、すべての患者に対して、個々の患者に適した術式で手術を行い、病理評価を行った。

 主要評価項目は病理学的完全奏効割合(pCR rate)。将来、非手術療法(NST:nonsurgical treatment)を実現するためのまずは第一歩として、今回の検討では、pCR rateが50%を超えることを目標とした。また、副次的評価項目は、臨床的完全奏効割合(cCR rate)、乳房温存割合、無再発生存期間、全生存期間、有害事象とした。

 その結果、手術が行われた106人のうち、pCRを得たのは36.1%(39人)だった。 ただし、ホルモン受容体(HR)陰性/HER2陽性の患者(14人)ではpCR rateは57%と高く、HR陰性/HER2陰性のいわゆるトリプルネガティブの患者(25人)でもpCR rateは52%だった。一方、HR陽性/HER2陰性の患者(46人)では低く24%、HR陽性/HER2陽性(20人)では40%だった。

 術式としては、乳房温存術を受けた割合は88.9%で、対象をすべてのプロトコールを完遂した83人に絞ると94.0%(78/83人)に上った。各治療法による有害事象は軽度〜中等度で、放射線治療による有害事象は、早期・晩期ともにグレード3、4に当たるものは発生しなかった。ただし、1人は乳房温存術3カ月後に放射線壊死による壊死組織切除を受けた。

 4年間の全生存期間は93.5%。再発率については、4.5年間の経過観察期間の中で、HR陰性/HER2陽性の患者で7%にとどまったものの、トリプルネガティブの患者では24%が再発していた。HR陽性/HER2陰性では22%、HR陽性/HER2陽性では15%だった。

 「全体としては予想していたpCR rateは達成できなかったものの、術前の化学放射線療法は、手術時の合併症を増加させることなく非常に高い乳房温存率を達成した」と向井氏。
 
 さらに、同試験はトラスツズマブなどこの数年で好成績を出している新薬が保険承認されていないときのレジメンであったものの、一部の群ではpCR rateが50%を越えていた。

 今後は、対象をpCR rateの高かった群に絞り、検討していく予定だ。「海外では化学療法とハーセプチンを組み合わせることでpCR rate 60%というデータがある。そこに放射線治療を加えれば、もっと高いpCRが得られるのではないか」と向井氏。「術前化学放射線療法でpCR rateが80%程度になれば、手術前に生検やMRIなどをで腫瘍の残存がないことを確認し、NSTを治療の選択肢として提示することが現実的になるかもしれない」と話している。