名大血管外科教授の古森公浩氏

 増え続ける閉塞性動脈硬化症ASO)を含む末梢動脈疾患PAD)の最新の治療戦略はどう変化しているのか。11月30日、第15回日本血管生物医学会・学術集会で名大血管外科教授の古森公浩氏(写真)は、昨年の第22回国際脈管学会世界会議で発表されたTASC IIの概要を紹介するとともに、血行再建術が困難な症例に対する最新治療の研究動向や血行再建術で問題となる晩期閉塞に対応する治療法開発動向について講演した。

 2000年に発表された下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針TASC)の改訂版であるTASC IIは、PADの疫学、危険因子および合併症の管理、間欠性跛行、慢性重症虚血肢、急性虚血肢、血管内治療/血行再建術、無侵襲診断の7つからなる。TASC IIには、日本から東京医科大学の重松宏氏と古森氏が日本脈管学会の代表として参加した。

 TASC IIでは、臨床症状と治療選択として、Fontaine臨床症状分類で(1)I度、症状がなく、時に冷感やしびれ感を訴える場合、食事や運動療法のほかに進行予防のための薬物療法を推奨、(2)II度、間欠性跛行の場合、運動療法や薬物療法で数カ月から半年様子を見て、改善しなければ、血行再建術も考慮する。血行再建術は血管内治療と外科的バイパス術があるが、最近、血管内治療の適応が拡大している、(3)III度(安静時痛)、IV度(壊疸、虚血性潰瘍)は放置すると切断にいたる可能性が高いため、血行再建術を優先し、適応がない場合に血管新生療法も試みられる──とまとめている。

 間欠性跛行の運動療法についてTASC IIで特徴的なのは、「監視下の運動療法プログラムについて、跛行患者の初期治療の一環として常に考慮すべき」点をグレードAで推奨していること。この監視下というのは、たとえば週に3回各1時間ずつ3〜6カ月トレッドミルを続けるといったリハビリテーションを行うものだ。ただ、日本ではまだstrictに“監視下”の運動療法を行っている施設は少なく、昨年発足したばかりの専門医制度であるvascular technologistの早急な普及と”Vascular Laboratory”施設の充実が望まれる。

 間欠性跛行の薬物療法については、抗血小板薬、プロスタグランジン製剤などが上げられるが、TASC IIでは、抗血小板薬のシロスタゾールのみが第一選択薬として跛行症状改善のため、まず効果確認として3〜6カ月投与することがグレードA推奨となっていることを紹介した。症候性PAD患者は、心血管疾患、脳血管疾患の合併症が多いため、抗血小板療法を行うことで心血管疾患の死亡率を低減させることがグレードA推奨だ。

 薬物治療で効果が得られなかった場合、PADは、外科的バイパス術か血管内治療が選択肢となる。腸骨動脈領域と鼠径部以下の領域に分けられ、腸骨動脈領域については血管内治療が主流となっており、鼠径部以下では外科的バイパス術と血管内治療の両方が取り組まれている。最近の腸骨動脈領域の血管内治療は高い開存率が得られるようになってきている現状を紹介した。

血行再建術が抱える問題に対し新しい治療法開発に挑む

 外科的バイパス術や血管内治療の成績は高いレベルにあるものの、まだまだ解決すべき課題がある。ひとつには、末梢の血管の流れが悪く、また全身状態が悪いため血行再建術が困難な患者への対応や、また、鼠径部以下の血行再建術、特に浅大腿動脈(SFA)領域で約20〜30%で起こってしまう晩期閉塞への対応だ。前者は治療的血管新生療法、後者は原因となる内膜肥厚を抑制する治療法だ。

 まず古森氏は、血行再建術が難しい患者への対応として治療的血管新生療法の現状について語った。1つは、血管内皮前駆細胞を用いた細胞移植療法だ。単核球細胞移植例でCD34陽性細胞数の増加や末梢血中VEGF濃度、末梢血中bFGF濃度が向上した症例などが存在するが、まだまだ治療成績は満足なものではないと指摘、さらなる治療法の改良が必要とした。

 もう1つは遺伝子治療で、VEGFを使った遺伝子治療については十分な臨床効果が得られてない現状を紹介。大阪大学で取り組まれているHGF遺伝子治療や九州大学で取り組まれているFGF2遺伝子治療への期待を語った。

 次に浅大腿動脈(SFA)領域の血行再建術の問題点として、約20〜30%に晩期閉塞が起こってしまうことを指摘。開存率向上のために、晩期閉塞の主要原因である内膜肥厚の制御が必要とした。内膜肥厚は、中膜平滑筋細胞が内膜に遊走・増殖して起こるもので、シェアストレスや内膜機能低下によるNOやプロスタグランジンの産生低下、単球/マクロファージの接着、浸潤、サイトカイン発現などさまざまな成因が考えられている。そこで、内膜肥厚抑制を行うことによる開存率の向上のため、(1)細胞移植や遺伝子治療の確立、(2)薬物治療の確立、(3)ステント、グラフトの素材の改良――が研究のポイントとした。

 遺伝子治療については、ヒトでは、E2Fデコイを使った遺伝子治療を行った大規模試験であるPREVENT III試験やPREVENT IV試験があるが、いずれも有意差がなかった。次に古森氏らが、炎症性細胞の移動を促進する働きがあることが知られているミッドカインを使って行っている研究を紹介。ミッドカイン欠損マウスでは内膜肥厚が起こらないことなどを確認。ウサギにおけるミッドカイン遺伝子を使ったアンチセンス治療で内膜肥厚が抑制できたことを紹介し、新しい治療ターゲットとして有望な結果が得られているとした。

 また、薬剤としてスタチンが有望であることも紹介。薬剤投与群で静脈グラフト内膜肥厚が抑制されたこと、ミッドカインの発現も抑制されたことを明らかにし、今後のエビデンスの蓄積が期待されるとした。ステントについては、九大と共同でナノ粒子溶出ステントの開発にも取り組み始めたことを紹介。これらの治療法の開発が開存率の向上につながると期待を語って講演を締めくくった。