異分野の研究者、医師の方々にも参加していただきたいと話す江頭氏

 循環器内科、心臓血管外科、高血圧や脂質異常症、脳卒中から慢性腎不全、網膜症そして癌──関係する診療科を数えれば幾つにもなってしまうこれらのキーワードをつなぐのは「血管」。血管の研究・臨床にたずさわる異分野の基礎研究者から臨床医までが集結するのが日本血管生物医学会だ。11月29日、30日の2日間にわたり、福岡市の九大医学部百年講堂で第15回学術集会が開催される。学会長を務める九大循環器内科学分野准教授の江頭健輔氏(写真)に、今学会の意義を聞いた。

── 学術集会の開催が近づいてきましたが、今回の見所はどういったものでしょうか。

江頭 今回の学術集会のテーマは、「血管生物医学の将来像:基礎〜臨床交流、異分野交流、国際交流」です。詳しくはホームページをご覧頂きたいと思いますが、血管生物医学会が担うべき役割を反映しています。

── 担うべき役割とは?

江頭 プレナリーセッション「薬剤溶出ステント(DES)の陰から光を探る」という企画によく現れていると思っています。DESに使われている薬は、抗癌剤のパクリタキセルや免疫抑制剤のシロリムスです。これらの薬は既存のポリマーとの相性(脂溶性が強い)や平滑筋細胞増殖抑制作用が強いことから再狭窄リスクを劇的に減らすとされ、実用化されました。しかし、血管生物医学の立場から見ると、これらの薬が血管壁全体に保護的に働くのかどうかの検証は不充分であったと言わざるを得ません。現行のDESに使用されたポリマーの副作用の可能性は1990年代に指摘されていました。

 発売後、多くの患者(600万人以上)に使用され、これによって再狭窄が少なくなり救済されている患者が数多くいます。一方で、発売初期の段階で冠動脈イベントにつながる血管内皮傷害や血栓のリスクが有るとする症例報告や病理学的所見が報告されていました。米国食品医薬品局(FDA)も適正使用を喚起しました。しかし、これらの懸念は医療機器メーカーやインターベンションに関わる臨床医から顧みられることは少なかったようです。最近になって、遅発性血栓症による死亡増加の可能性が現場の医師からエビデンスとして示されて初めて過剰使用の自粛が行われているというのが現状でしょう。この経過を見ると、DESの開発の過程で血管生物医学の研究を進めている研究者や臨床医が持っている知識や情報が十分に生かされたとは言い難いと思います。

 DESに関わる血管生物医学、工学、薬学の研究に詳しい異分野の研究者や医師が一堂に会して問題点・情報を交換し議論することが、より良い次世代DESの開発につながると期待します。

── 最近承認された抗血管新生作用を持つ分子標的型の抗癌剤では、高血圧が有害事象として報告されています。

江頭 それも血管の重要性、異分野交流の重要性を示す一例といえます。分子標的薬によってVEGF(血管内皮増殖因子)を抑制すると、血圧が上がり、腎障害(蛋白尿)が生じること等は血管生物医学の基礎研究から知られていることです。蛋白尿の原因は、腎臓において血液をろ過する内皮が損傷されるからでしょう。癌を治療している医師が、カルシウム拮抗薬とACE阻害薬の2剤を投与しないと血圧が下がらない、と訴えるわけですね。そこで血管内科医と腫瘍内科医のコラボが生まれる。血圧や臓器保護の知識も腫瘍内科医に必要になってきた。互いが持っている知識や問題点を共有し、議論する必要性が高まっている一例といえるでしょう。

──診療科を超える議論が必要であると。

江頭 全ての臓器は血管によって正常な形態と機能が構築されていて、血管の異常は臓器不全につながります。つきなみな表現ですが、血管は臓器のライフラインです。臓器障害の病態を把握して治療法を確立するには、血管の発生、再生機構、病態を統合的に研究し理解する血管生物医学が重要だといえるでしょう。

 心臓病だけでなく慢性腎疾患(CKD)も脳卒中も血管の病気です。例えば、“血管の再生修復”をもたらす薬(スタチン、ARB、抗血小板薬など)が臓器不全の治療法になっている、あるいは予後の改善につながっていることを考えれば、心臓病だけでなく異分野の研究者、医師の方々にも是非参加していただきたいと思います。

 また、本学会は、これまで米国心臓病学会や韓国血管生物医学会と連携してきましたが、今回は中国、台湾の研究者を招聘しています。若手研究者の意欲的な研究を書類選考によって若手研究奨励賞を設けて顕彰します。さらに、高得点演題から選ばれた演題からプレゼンの内容を評価して、口演賞やポスター賞を選びます。若手研究者の活性化になればと期待しています。分野、国境、年齢を超えて集まり、実り多い議論の場になればと願っています。