帝京大学医学部附属病院泌尿器科准教授の井手久満氏

 PSA値と血清テストステロン値、卵胞刺激ホルモン値(FSH)の3つのデータを使って浸潤性前立腺癌を評価できるノモグラムが作成され、Gleason score7以上の前立腺癌である確率を簡便に表すことができる可能性が示された。4月25日から開催された第96回日本泌尿器学会総会のワークショップ「テストステロンと前立腺癌─新しい展開─」で、帝京大学泌尿器科准教授の井手久満氏が発表した。

 井手氏によれば、前立腺癌のスクリーニングでは、PSA値について明確なカットオフ値はなく、PSA値を4または2.5に設定しても、それ以下のPSA値で臨床的に重要な癌が見つかる例があるという。逆にPSAのカットオフ値をさらに下げると、臨床的に重要ではない癌が検出される可能性も指摘されている。

 一方、近年、血清テストステロン値が前立腺癌の悪性度の予測因子であることが国内外で報告され始めている。井手氏らの研究でも、同科を受診した前立腺癌患者235例を対象として血清テストステロン値を測定した結果、Gleason score7以上で有意にテストステロン値が低いことが明らかになった。

 そこで、血清テストステロン値を含む臨床データを用いて、前立腺癌およびGleason score7以上の悪性度の高い前立腺癌を予測するノモグラムを開発するため、PSA値が2.5ng/mL以上を示した、前立腺癌生検を受けた患者396名を対象に解析を行った。

 解析項目は年齢、PSA、LH、FSH、血清テストステロン値、前立腺重量、移行領域(Tz領域)前立腺重量で、作成したノモグラムは別の前立腺癌71例、正常103例の計174例のデータを用いて検証した。

 396例のうち、生検で陽性だった患者146例、陰性だった患者250例だった。年齢中央値は、生検陽性例72歳(42-89)、生検陰性例68歳(43-89)、PSA値は、生検陽性例24.02±50.22、生検陰性例10.34±26.02、前立腺重量は、生検陽性例35.12±18.00、生検陰性例52.25±25.70、Tz(移行領域)量は、生検陽性例17.35±11.45、生検陰性例29.89±19.85、LH(黄体形成ホルモン)は、生検陽性例10.83±9.32、生検陰性例8.49±6.35、FSH(卵胞刺激ホルモン)は、生検陽性例19.44±20.23、生検陰性例は14.01±11.31、TST(血清テストステロン)は、生検陽性例402.67±179.47、生検陰性例は426.29±170.05だった。

図1 前立腺癌を診断するノモグラム。排尿障害でかかりつけ内科医院を受診した患者(70歳、PSA:10mg/mL、FSH:15mIU/mL、テストステロン値200ng/dL)で、Tz量を20gか60gと仮定した場合のノモグラムの使用例(画像をクリックすると拡大します)

 多変量解析の結果、生検による癌の有無に関して、年齢、PSA、Tz量、FSHがそれぞれ独立した因子だった。これらの結果から作成した前立腺癌を診断するノモグラムが図1だ。このノモグラムは、初めてかかりつけ医を受診した患者という場合を想定したスクリーニングに活用できる。井手氏によれば、血清テストステロン値に有意差は見られなかったが今回のノモグラムには加えており、PSA値などの条件を変えて新たに検討すればテストステロン値の有用性がさらに変わる可能性があると指摘した。

 また、生検で陽性だった患者146例を対象に解析を行った結果、Gleason score7以上は80例、7未満は66例だった。年齢中央値は、7以上で73歳(56-89)、7未満で71歳(42-87)、PSA値は、7以上で35.71±65.09、7未満で9.84±10.25、前立腺重量は、7以上で33.17±16.01、7未満で37.48±20.01、Tz量は、7以上で17.23±10.85、7未満で17.49±12.22、LH値は、7以上で12.21±11.44、7未満で9.15±5.44、FSH値は、7以上で23.18±25.08、7未満で14.91±10.52、TST値は、7以上で351.69±164.85、7未満で464.47±178.16だった。また、多変量解析を行った結果、PSA、FSH、TSTがそれぞれ独立した因子だった。

図2 前立腺癌の悪性度(Gleason score7以上)を診断するノモグラム。排尿障害でかかりつけ内科医院を受診した患者(70歳、PSA:10mg/mL、FSH:15mIU/mL)で、テストステロン値が200ng/dLか700ng/dLと仮定した場合のノモグラムの使用例(画像をクリックすると拡大します)

 これらの結果から作成した、Gleason scoreが7以上の悪性度の高い前立腺癌かどうかをPSA値、TST値、FSH値で診断するノモグラムが図2だ。

 最後に井手氏は、血清テストステロン値はGleason score7以上の悪性度の高い前立腺癌を予測するバイオマーカーであり、ホルモン療法だけでなくさらに進んだ治療が必要な前立腺癌を検出するために役に立つ可能性が示唆されたこと、Gleason scoreが7以上の前立腺癌である確率が示されるノモグラムは、患者の希望や画像所見とともに生検を実施するかどうかを判断する際のツールとして活用できることを指摘して講演を締めくくった。