術前化学療法と積極的な外科手術との組み合わせにより、大腸癌の肝転移に対する治療が大きく変わろうとしている。


 日本外科学会学術集会のワークショップ「FOLFOX時代の転移性肝癌に対する肝切除の位置づけ」では、大腸癌肝転移の治療に関する内外の最新動向が報告され、会場に入りきらないほどの参加者で熱気に満ちたシンポジウムとなった。

ベストチョイスは肝切除

 シンポジウムではまず、基調講演としてフランスHopital Paul BrousseのRene Adam氏が、海外の最前線の状況を解説した。

 Adame氏は、42カ国117施設6912人のデータから治療法ごとの生存曲線を示し、大腸癌肝転移の治療のベストチョイスは肝切除であることを指摘した。切除した場合の5年生存率が40%、10年生存率が24%であるのに対して、切除しなかった場合は3年生存率が10%程度に落ちてしまっていた。さらに2度、3度と追加切除しても、同様の生存率が得られることを示した。

 そして術前補助化学療法は、手術の予後を改善できることを説明した。FOLFOX療法と手術を組み合わせることで改善が期待できるという。肝転移が5個以上存在する場合に、術前補助化学療法による効果が高いというデータも示した。

 Adam氏は、大腸癌の肝転移患者の場合、そのまま手術可能なのは10%から20%程度であり、残りの80%から90%の患者をどうするかという点が現在の問題であると指摘した。これらの患者には、術前補助化学療法によりダウンステージングさせて手術を行うことが有効である。この場合、最初から手術可能だった群には及ばないものの、手術をせず化学療法のみの群よりもはるかに高い5年生存率、10年生存率が得られているという。

 それでは手術可能性をどのように判断するのか。腫瘍の数や大きさ、切断端や肝外部位で判断するのではなく、切除後に残る肝臓の量により判断されるべきだとAdsam氏は話す。つまり、予後因子や肝外転移に関わらず、切除可能で根治的であれば手術すべきだという。転移の切除は抗癌剤の奏効率に依存する。従来の化学療法で効果が不十分な場合は、セツキシマブやベバシズマブといった分子標的薬を追加することで手術が可能になるとした。

 Adam氏は、残る肝臓が30%未満となり切除が不可能な場合には、術前補助化学療法を行い、さらに塞栓術や多数回肝切除など外科技術を駆使してすべての転移巣を切除する方針を採っている。

 肝手術のタイミングも重要である。化学療法はできるだけ短く、切除可能になったらタイミングを逃さず早期に切除する。術前化学療法中に増悪した場合には早急に切除しなければならない。また化学療法によるブルーリバー(類洞拡張)の可能性が出たら、すぐに切除すべきだと説明した。

 Adam氏は最後に、根治の可能性について、十分にあると強調した。再発率は高いが再肝切除が可能であり、疾患に対して戦わなければならないと指摘し、術前に悪い予後因子があっても長期生存した例があることを紹介した。

日本におけるFOLFOX術前及び術後療法の成績

 基調講演に続いて、国内の大腸癌肝転移に対する化学療法を併用した肝切除の現状が6件報告された。

 宮城肝胆膵化学療法研究会の山本久仁治氏は、大腸癌肝転移術後の補助療法としてのmFOLFOX6の、多施設共同フェーズ2臨床試験の中間解析結果を報告した。現在までのところ生存率、無再発生存率とも、海外での試験と比べて特に見劣りはしないという。

 箕面市立病院外科の加藤健志氏は、術前mFOLFOX6療法の現状について報告した。同院では術前のmFOLFOX療法を34人が受け、9人が肝切除された。このうち7人が当初切除不可能例だった。加藤氏は切除不能肝転移症例に対するmFOLFOX6療法は有効な治療の1つだが、mFOLFOX6療法後の肝切除術はブルーリバーを認めるため、肝硬変症例と同様に慎重でなければならないとした。

 熊本大学消化器外科の馬場秀夫氏もFOLFOXによる術前化学療法について報告した。切除不能大腸癌肝転移35人に対してFOLFOXを行い、48%にあたる17人が切除可能となった。化学療法後切除症例では腫瘍径が5.8cmから3.5cmに縮小し、奏功率は81%だった。化学療法により術中、術後合併症は特に増加しなかった。化学療法後に切除できた症例の2年生存率は100%だった。

 横浜市立大学の嶋田紘氏とともにワークショップの司会を務めた東京医科歯科大学の杉原健一氏が、ワークショップの最後にとりまとめを行った。

 まず、大腸癌のゴールデンスタンダードは肝切除で30%から50%の5年生存率が見込まれること。問題点としては肝切除率が低いこと(15%〜25%、ただし日本では40%〜50%)と、肝切除後の再発率が60%から70%と高いことを挙げた。

 これらの問題に対しては、まず切除不能大腸癌に対する術前化学療法の進歩があり、切除可能例が増え予後の改善が見られることを指摘した。また再発率が高いことについては、再肝切除、肝切除後の補助療法が貢献するであろうとした。

 ただし、Adam氏の発表は「プロ中のプロの成果」であり、化学療法の適応には十分注意すべきだと釘を刺した上で、化学療法と外科技術を組み合わせた新たなエビデンスを日本の臨床試験で出していきたいと締めくくった。