5月に長崎で開催された第108回日本外科学会定期学術集会では、「先端を駆ける外科医達」と題したセッションで、高名な外科医が次々と登場し、自身のこれまで行ってきた研究成果を発表した。このうち、消化器外科領域で登場した昭和大学一般消化器外科准教授の村上雅彦氏は、自身が開発した、胸腔鏡と腹腔鏡の併用による低侵襲な食道癌の術式について紹介した。

 村上氏がこの術式を思いついたのは、現在、標準術式となっている、徹底したリンパ節郭清を行うために開胸と開腹を行う食道亜全摘術の限界を感じたことがきっかけだった。手技は確立されているとはいえ難易度が高く、消化管手術の中で最も患者への侵襲度が高い。さらに、手術後は呼吸器系・循環器系の術後合併症に注意が必要なことに加え、縫合不全や創感染といった感染症にも気を配る必要がある。

 そこで、より術後のQOLを改善する方法はないかと考えた村上氏は、現在の開胸開腹手術では腹壁が破壊されるために呼吸器系の合併症が生じる欠点に注目、胸腔鏡で胸壁内を、腹腔鏡で腹腔内を手術する方法を編み出した。以前から食道癌に対する鏡視下手術は行われていたが、専門医による導入ゆえに、小開胸を併用した、標準術式に準じた形がほとんどだった。

 村上氏は、同科で行っている手術の特徴として、小開胸を行わず完全鏡視下で胸腔内の手術を行っていること、腹腔内の手術では手を挿入する10cm弱の切開を置いて臓器保護を行いながら手術を行っていること(HALS)、手術器具を挿入するポートもプラスチック製の柔らかいものを使用していること、胃管やドレーン留置をできるだけ省き、患者のQOLを考慮して早期の経口摂取を目指していることを挙げた。傷口が小さく、手術創部は術後約2週間で目立たなくなる。

 この方法を、村上氏らは2006年12月から2008年4月まで278人に行った。手術時間は、胸部が平均204分、腹部が平均75分。出血量は胸腔内で平均167mL、腹腔内で平均25mLと非常に少量だ。術中合併症としては、導入早期に気胸が2%、血管損傷が1%みられた。術後合併症としては、縫合不全5%、嗄声5%、肺炎2%などであり、開胸手術に比べて呼吸器合併症は減少していた。

 術後呼吸機能を評価したところ、術前と比べた%肺活量(%VC)の低下率は、術後1週間で22%あったが、1年後には7%にまで回復した。1秒率(FEV1%)の低下率は、術後1週間で6%にとどまり、1年後には5.5%だった。周術期管理については、ICU滞在が1日で済むようになり、手術翌日には歩行を開始、術後3日で食事(三分粥)が取れるようになっている。胸腔ドレーンを4日間留置するのみで、胃管や腹部ドレーン留置、中心静脈栄養などは行っていない。

 村上氏は、「早期離床が可能になり、周術期管理を大きく簡素化できた。患者にかかる負担も軽くなり、術後合併症の減少によってドクターコールも減るなど、患者と医師双方に非常に大きなメリットがあった」とまとめた。