高齢者に多い食道癌では、手術後の合併症として、口腔内の細菌が下気道に吸引されるなどによって起こる誤嚥性肺炎が問題となる。口腔内の細菌の多くは、歯茎の周囲に存在している。そこで、手術の前に1日5回の歯磨きをしてもらったところ、術後肺炎の発生が減少したと、千葉大学先端応用外科の阿久津泰典氏が、第108回日本外科学会定期学術集会で発表した。

 阿久津氏が検討の対象としたのは、2005年1月から2007年12月末までに施行した開胸食道癌手術例71人。このうち、2006年12月までの42人を口腔ケアを行わない対照群とし、2007年1月からの29人を、起床後と朝昼夕食後、就寝前の1日5回、手術当日の朝まで歯磨きを継続する介入群とした。両群の患者背景に、特に大きな差はなかった。全員、術前に歯垢培養を行い、肺炎を起こし得る病原菌の有無を調べた。

 両群合わせて、術前の歯垢培養によって病原菌が検出されたのは14人(19.7%)だった。歯磨きの回数を調べると、病原菌の陽性群では1.57回だったのに対し、陰性群では2.10回と明らかな差があり、歯磨きによる病原菌の減少が裏付けられた(p=0.039)。介入群では病原菌の検出率が、介入前の24.1%から歯磨きの開始後には13.8%へと減少した。

 両群での術後肺炎の発生数を比較したところ、対照群では28.5%(12人)だったのに対し、介入群では10.3%(3人)に減少した。さらに、気管切開を必要とする重症肺炎の発生数も、対照群の4.8%(2人)から0%(0人)へと減少した。

 阿久津氏は、「歯磨きの回数を増やすことで病原菌の数が減少し、術後肺炎の発生も抑えることができた。今回の検討では症例数が少なかったために有意な差は得られなかったが、臨床的には重症肺炎がなくなるなど、非常に有効という印象を持った。より専門的な口腔ケアを行えば、さらによい結果が出る可能性もある」と話した。