第108回日本外科学会定期学術集会が5月15日から17日までの3日間、長崎市で開催される。近年、外科系を志望する医師の減少により、外科医療の将来が危惧されている。この状況に学会としてどう対処して行くのか。学術集会の会長を務める兼松隆之氏に話をうかがった。


長崎大学大学院移植・消化器外科教授の兼松隆之氏

――外科医の減少、ひいては外科医療が危機に瀕しているということを、日本外科学会は一般の方々に向けて積極的に説明を行っています。

兼松 外科医が少なくなっているということは深刻な問題ですが、産婦人科医や小児科医の不足と比べて、一般の方々の認識は低いという印象があります。外科医についても、現状を知ってもらわなければ改善することはできません。昨年の外科学会学術集会が終了した時に、当時の門田会長が新聞に一面広告を出したり、私もいろんなところで発言してきました。

 小児科、産婦人科と比べても、外科の深刻さは変わりません。むしろ、小児科医は微増、産婦人科医は横ばいという状況の中、外科医だけが減っているのです。外科医の減少は目に付きにくいのですが、それだけに学会として声を上げないと、現実が一般に御理解いただけないのではないかと思うのです。

 実際、メディアへの露出が増えるに従い、外科医不足についても、関心をもっていただいているという手応えを感じています。ただし、外に訴えるだけではなく、自分たちの問題として取り組まなければ、何も変わらないでしょう。

――それでは、学会員に向かって何をどのようにアピールしていくのでしょうか。

兼松 今回の学術集会のテーマは「外科学の新たな開港」です。長崎で開催するので開港という言葉を選びました。でも本当に言いたいのは、サブタイトルの「社会で機能するProfessionalismの追求」ということなんですね。外科集団ですから、手術を中心として自分たちの技術を磨いて行くのは当然である。しかし、それを社会のためにいかに使っていくかということについては、できるだけ社会の声に耳を傾けていこう。それが大きなコンセプトです。

 具体的な問題としては、やはりまず外科医不足をどうするか。ここ数年、学術集会で継続的に取り上げてきましたが、今回も、短期的、中長期的にどうすればよいのかを、各分野の専門家、メディア、行政、政治家を交えて議論します。

 外科医不足の原因は、ある程度はっきりしているのです。一つは労働環境の悪さ。日本外科学会が会員にアンケートを行って、どうして外科志望者がこんなに少ないのかを聞いたところ、トップに来たのは労働環境の劣悪さでした。これをどうすればよいのかを考えます。

 アンケートで次に多かったのが、医療事故・医療訴訟のリスクです。この問題に関しては、特別企画で議論します。

 そしてもう一つは、世界的な傾向ですが、女性外科医が増えていることです。今回は、女性外科医が働きやすくするためにはどうすればよいかというセッションも設けています。女性外科医の力を借りなければ医療が立ち行かなくなっていますし、また、女性特有の疾患に関しては女性の力を借りるべきです。

 これらのことは、学会が一方的に言っても、誰も聞く耳を持たない。だから、社会から声を上げてもらわなければならないのです。一般の方と一緒に考えて行きたいのです。

――外科医不足に関して、短期的な改善策はあるのでしょうか。

兼松 労働環境を悪化させている一因は、雑務が増えていることです。メディカルクラークの導入で少しは何とかなるかもしれませんが、この制度は、特定機能病院など大きな施設には適応になっていません。まず、この制度をもっと広げてもらわなければなりません。

 それから、やはり、激務の割には収入が少ないというところに帰ってきます。手術をしてケアをしても他の診療科と同じ給料。診療報酬をみても、手術の難易度やかかる人的・時間的要素などが充分に反映されていない。外科学会は厳しい専門医制度を発足させたが、「専門医」を広告できるくらいで見返りが少ない。きつくて、リスクがあり、年齢的にいつまでも手術が出来るわけでもなく、開業しても一人で手術が出来るわけではない。外科というのは厳しいシチュエーションにおかれているのです。何らかのインセンティブを考えなければいけない。

 我々としては、せっかく外科を選んだ方々が、生涯にわたって外科の道を研鑽できるような制度設計、グランドデザインを提示したいと思っています。中間層が現場から立ち去らないように。ただ、肩書きだけじゃだめで、希望を持って外科の道を進めるような何かを示さないといけない。また、高度の外科だけではなく、プライマリケア外科の専門医資格など、幅広い会員が目標を持てるような制度設計をしなければいけないと考えています。

――今回の学術集会は、若手向けのセッションが多いという印象を受けます。

兼松 ご指摘の通りで、若手に外科の魅力を伝えることが最も大事だと思っています。外科医不足と言っても、今、腕を振るっている中堅はそれほど不足していない。一番の不足は若手なのです。

 学術集会では、研修医のコーナーを設けて、彼らがどういうことを考えているのか、率直に聞こうと思っています。研修医が外科で何を学んだかを発表するコーナーを設けましたが、全国から146題の応募がありました。

 そして今回は、中学生を対象に体験コーナーを設けました。全国から41名が応募してくれました。ここでは実際に手術着を着て、清潔操作を行って、電気メスで鶏肉を切除するなどの体験をしてもらいます。外科というのは素晴らしい、これだけのトレーニングを積んで、これだけの注意を払って仕事をしているんだ。やりがいのある仕事なんだということをわかってもらいたい。これこそ長期的な視点での外科医不足解消策ですね。

――先生はいろんなところで、「外科はおもしろい」とおっしゃっていますね。

兼松 外科医の仕事は手術だけではないのです。患者さんとの深くて長い信頼関係が必要な、やりがいのある仕事なのです。それがうまくいったときには、今でも、やってきてよかったと喜びを感じます。労働環境とか、インセンティブとかの問題をクリアすれば、その先に喜びがある。今はそのハードルが少し高すぎるんですね。

 それから、科学技術と医療との融合を考えたときに、科学技術が入ってきやすいのは外科だと私は考えています。手術にいろんな機械が入ってきて、次は臓器を作るなど、他の領域の技術を入れることに外科は寛容でした。そういう意味で、若い人には、未来の外科を作っていこうというアピールをしたい。「外科は必ずおもしろくなる」と訴えたいですね。