高知大内分泌代謝・腎臓内科教授の寺田典生氏

 急性腎障害AKI)による尿細管障害の病態改善に、尿細管細胞の発生・再生を促す液性因子の導入による尿細管細胞の再生医療が有望であり、また、アポトーシス阻害薬の応用によって尿細管細胞を再生する治療法にも可能性があることが分かってきた。高知大内分泌代謝・腎臓内科教授の寺田典生氏(写真)が、第51回日本腎臓学会のワークショップ4「腎臓の再生−−最近の進歩と今後の課題−−」で報告した。

 AKIは、入院患者の4〜5%、ICU入院患者の20%近くで発症し、死亡率は3割を超える。しかし、AKI患者の4割で尿細管細胞が再生、修復することが認められており、この面から病態解明が進んできた。

 AKIで尿細管細胞が再生するには、その元となる細胞がどこから来るのかが問題になり、現在、3つの考え方がある。骨髄幹細胞由来の何らかの液性因子が尿細管細胞の再生を促すという説、腎内に尿細管の幹細胞が存在しそれが元になっているという説、そして寺田氏らが提唱する、尿細管細胞が虚血などの刺激によって脱分化(dedifferentiation)し、増殖、再生するという考え方だ。

 胎生期に腎臓の尿細管が発生するときには4つの遺伝子(Wnt4、Delta、Notch2、Hes)が関与し、これらはいずれも、AKIで尿細管が再生するときにも発現することなどが確認されている。寺田氏は、これらの知見を元に、尿細管が障害されると、尿細管細胞の一部が未分化の状態に形質転換し、幹細胞的性格を獲得、それがWnt4などの遺伝子によって尿細管細胞へと再生され、尿細管が修復されるとの仮説を立てた。

 そして、尿細管が障害を受けると、様々なシグナルが出て、それによって尿細管細胞が脱分化すると同時にWnt4、Notch2陽性細胞が発生、増殖し、尿細管細胞へと分化していくリカバリー・サイクルの存在を証明した。これによって、尿細管が障害を受けたときに、このリカバリー・サイクルを促進する液性因子を導入すれば、AKIの新しい治療法となり得ることが分かった。この成果は、2008年6月の「Kidney International」誌に掲載された。

 しかし、尿細管障害の程度が強い場合には、シグナルが回らず、尿細管細胞がアポトーシスに陥り、腎機能は回復しなくなる。その場合は、新規に幹細胞やES細胞、iPS細胞を導入する細胞治療の可能性が考えられる。寺田氏らは、マウスのES細胞を用いたin vivoの研究を行い、尿細管マーカー陽性の管腔形成を確認している。

 また、AKIによって尿細管細胞はダメージを受けるが、中等度のダメージであれば、細胞は壊死せず、アポトーシスの段階に留まる。寺田氏らは、アポトーシスになるよう調整することによって、尿細管細胞の再生、腎機能の修復が可能になると考え、尿細管細胞がアポトーシスに至るパスウェイを検討した。

 着目したのは、アポトーシスを起こすJNKと、アポトーシスを防ぐPI3Kという2つの遺伝子で、研究の結果、ASK1という遺伝子がAKIの予後増悪因子の1つであること、PI3KinaseとAktが腎機能保護作用を有するとの結果を得た。そして、C型肝炎や関節リウマチの治療に用いられているアポトーシス阻害薬が応用できる可能性があるとした。

 以上から寺田氏は、尿細管の再生医療の可能性として「尿細管の再生を促進する液性因子の解明と開発、細胞治療による尿細管細胞の再生、アポトーシス阻害薬の応用がある」と結んだ。