社会保険横浜中央病院副院長兼腎・血液浄化療法科部長の海津嘉蔵氏

 糖尿病性腎症を治療するためには降圧目標値130/80mmHg未満を厳格に達成する必要があり、RA系抑制薬の最大量までの増量や降圧薬多剤併用とともに、副作用を回避して安全、確実に治療が進むようチームで協力する必要がある──。社会保険横浜中央病院副院長兼腎・血液浄化療法科部長の海津嘉蔵氏(写真)は、第51回日本腎臓学会総会のシンポジウム「糖尿病性腎症の成因と治療」で、同院が2004年から取り組み始めた「腎機能改善外来」で行っている診療の詳細を発表した。

 海津氏は、講演の冒頭、「糖尿病性腎症に効果があるという多くの大規模試験があるが、糖尿病性腎症がなお腎不全原疾患の第1位で、さらに増加しているのはなぜか」と切り出した。海津氏は、糖尿病性腎症を含む慢性腎臓病が十分に治療できていないからではと疑問を呈し、十分に治療すれば、進行を阻止し透析導入数を減少させて、合併症や死亡を抑制できるとの確信を示した。

 ただし、患者への教育や精神的な支援、原病の治療・管理、合併症の予防など含めた治療を充分かつ安全に実施するにはチーム医療が必須と考えた海津氏は、2004年8月に腎機能改善外来を設立し、自らの確信の実証に取り組んできた。

 チーム医療では、(1)腎臓専門医は治療方針の決定と実践およびコメディカルへの指導目標の指示、(2)看護師は精神的支援や生活習慣是正、自己管理法の指導、(3)栄養士は食事指導、(4)薬剤師は服薬指導、服薬チェック、副作用出現時の対処指導、(5)ソーシャルワーカーは生活面の不安や苦痛の相談、腎不全医療制度の説明や生活支援、(6)検査技師は分かりやすいデータの提示――などという役割を分担して診療にあたっている。

 腎機能改善外来では、2004年8月から2007年10月までの3年3カ月の間に179人(糖尿病がある患者75人、糖尿病がない患者104人)を診療した。今回の発表では、このうち、治療期間が12カ月を超えることが出来た患者(糖尿病がある患者36人、糖尿病がない患者53人)を対象とした解析結果を発表した。糖尿病がある患者36人は、年齢67.7±11.5、受診期間は21±6.6カ月、蛋白尿は2.7±0.49、血清クレアチニンは2.8±0.30、クレアチニンクリアランスは38.6±5.57、空腹時血糖値148.0±11.0、HbA1cは8.4±1.76だった。非糖尿病群53人のクレアチニンクリアランスは2.7±0.22だったため、腎機能としては糖尿病群、非糖尿病群でほぼ同じだった。

 降圧目標は、起床時(早朝)血圧を130/80mmHg未満とし、そのためまず1日の塩分摂取量6g/日の減塩とともに、降圧剤としてまず、1)ACE阻害薬/ARBを処方し、最高用量まで使用して降圧が達成されなかった場合は、2)ARB/ACE阻害薬、3)利尿薬(少量)、4)カルシウム拮抗薬、5)αブロッカー、6)βブロッカー、7)中枢性交感神経抑制薬、そしてまだ降圧目標が達成されない場合は8)減塩(3g/日)を追加していった。ACE阻害薬やARBは必要に応じて最大用量まで増量したほか、他の降圧剤を順に併用して、130/80mmHg未満を達成するための厳格な降圧治療を実施した。日中の低血圧を回避するため、投薬は複数回に分けてるよう工夫している。利尿薬については適宜処方したり止めたりとコントロールした。

 降圧とともに、高カリウム血症、アシドーシス、高リン血症、低カルシウム血症、二次性副甲状腺機能亢進症、貧血、高尿酸血症、溢水・心不全、低アルブミン血症、血糖、高脂血症も目標値を掲げ、治療を行った。

 副作用発現を回避するため、ACE阻害薬やARBを最大用量まで使うことから食事のカリウム制限に注意した。また、降圧については、家庭血圧と就寝時血圧がともに130/80mmHg未満になるように降圧剤を処方した。厳格に降圧するためACE阻害薬やARBは腎機能の程度にかかわらず最大量まで増量、併用した。正常血圧例でも尿蛋白が0.5g/日以上では可能な限り少量から投与した。

 糖尿病患者群の治療前後の各項目の値は、HbA1cが8.4±1.7から6.1±0.1へ、起床時の収縮期血圧は144.5±4.5から129.9±2.5へ、尿蛋白は2.7±0.4から1.5±0.2へと有意に改善した。そのほかに、iPTH、pH、HCO3-、BEなども有意に改善した。ヘモグロビン値は腎性貧血を悪化させずに治療できた。同外来受診前は減少し続けていたeGFR値は横ばいになった。血清クレアチニン値の回帰曲線によって血清クレアチニン値が8.0mg/dLになるまでの期間を求めたところ、非糖尿病群では受診前38カ月から213カ月と175カ月の改善を達成した。非糖尿病群は受診前28カ月から53カ月と25カ月遅延させることが可能だった。ただし、非糖尿病群に対して糖尿病群は腎症を抑制できるが、改善効果は短いとした。

 同外来で治療した糖尿病患者75人(1年以上治療が可能だったのは36人)の転帰は、継続できた患者が35人(1年以上は22人)、脱落は6人(1年以上は1人)、転院は5人(1年以上は2人)、透析は27人(1年以上は9人)、死亡は2人(1年以上は2人で、死因は脳梗塞と肺炎)だった。透析になってしまった患者は治療期間が1年未満だった患者が46%だったのに対し、1年以上治療できた患者では25%で、治療期間が長い症例で有意に透析導入を遅らせることができたとした。

 最後に、海津氏は、治療目標を充分に達成できれば糖尿病性腎症の病態を改善させ、腎機能低下を抑制しうるが、非糖尿病性腎臓病に比べてまだ治療成績が悪いため、さらに検討が必要だとした。治療経験からの感想として、腎機能が悪化する要因を見逃さない臨床眼が必要で、多種類の治療を同時に実施し、治療目標を達成させる技量が必要で、絶えず行き過ぎ治療や副作用のリスクと対峙する覚悟が必要だと振り返った。また、患者、家族、コメディカルスタッフの協力がなければ怖くてやっていけないと語った。