浜松医大第一内科教授・菱田明氏

 腎臓専門医の役割は、一人でも多くの慢性腎臓病CKD)患者を診ることではない。かかりつけ医や腎臓以外の専門医、さらには栄養士や保健師を含めた、CKD患者を診る仕組み作りのオーガナイザーになり、心血管疾患による死亡を予防することだ−−。5月30日から始まった第51回日本腎臓学会の特別講演1「慢性腎臓病対策の現状と今後の展望」で、同学会理事長の浜松医大第一内科教授・菱田明氏(写真)は、CKD診療に対して腎臓専門医がどう向き合い、その役割を果たして行くべきかについて、方向性を明示した。

 学会初日の午前のセッションで、日本腎臓学会「日本人のGFR推算式プロジェクト」から、日本人のGFR推算式が発表された。この新しい推算式を基に、わが国のCKD患者数(尿蛋白陽性またはGFR60未満)を推計したところ、約1330万人(全人口の12.9%)になることが明らかになった。



日本人のGFR推算式
GFR=194 X Cr-1.094 X 年齢-0.287
X 0.739(女性の場合)
Cr:酵素法で測定した血清クレアチニン



 これに対し、腎臓専門医は3000人弱に過ぎず、CKD患者の診療をすべて担うことは不可能だ。しかし一方で、社会からは、透析患者の増加抑制、心血管疾患の発症とそれによる死亡の抑制が求められるようになった。しかも、この双方にCKDは深く関与している。さらに、上記のようにCKD患者が上述のように推計で1330万人もいることが分かってきた。

 菱田氏は、こうした背景を踏まえ「CKDの治療が進歩し、CKDの進行抑制は可能になっている」とした上で、「これまで腎臓専門医は、CKDの患者が透析導入にならないように努力してきたが、CKD患者では透析導入数をはるかに上回る人が、心血管疾患によって死亡していることを認識することが重要だ」と指摘した。

 実際、高血圧患者の心血管リスクの中で、CKDのリスクのハザード比は、脳血管疾患の既往、心疾患の既往、糖尿病の罹患より高い。一方で、CKDの患者に対し、血糖や血圧のコントロールを早期に開始することが予後を改善することは、数多くの研究結果から明らかになっている。従って、腎臓専門医は「学術的課題を解決し、エビデンスと実践とのギャップを解消しながら、CKD対策を推進するという、重大な役割を追うことになった」と強調した。

 菱田氏は、学術的課題を4つ挙げた。第一の課題は、CKD診療に必須のツールである日本人のGFR推算式だが、それは上述のように決定され、二つ目の課題である、治療のターゲットとなる患者数も1330万人と推計された。従って、残る二つの課題は「末期腎不全への進行や心血管イベントの発症リスクが高くなる、尿蛋白、GFRのレベルを決定すること、そして新しいCKDの治療法を開発することだ」と提示した。

 一方、エビデンスと臨床現場のギャップの中で最も問題となっているのは、1330万人と推計されるCKD患者をどう診療していくかだ。対策として、腎臓専門医を増やすのも一つだが、「かかりつけ医との連携、糖尿病や循環器疾患の専門医との連携をシステム化することによって、腎臓専門医以外の医師にCKDを診てもらうことが不可欠」とした。このうち、かかりつけ医との連携による診療システムについては、戦略研究「FROM-J」によって、連携のモデルを構築できるとの見通しを語った。

 学会レベルでの連携は、既に始まっている。糖尿病学会、循環器学会、高血圧学会、脳卒中学会、人間ドック学会、産業衛生学会などと合同で日本CKD対策協議会を発足させ、学際的協力体制を整えつつある。これまでに、日本CKD対策協議会を設立するなど、活動実績も重ねてきた。そして「今後は、腎臓病療養指導のための講習会を開催したり、栄養士学会との協力関係を強化するなど、コメディカルスタッフへの啓発活動も推進していく」と語った。

 こうしたことから、CKDの概念は腎臓専門医のためのものではなく、かかりつけ医、糖尿病や循環器疾患の専門医、コメディカルスタッフらが、腎臓の病気に取り組む際に分かりやすい概念として提案されたものだとし、「腎臓専門医は、多くの医療関係者がCKD対策に参加するよう促進するオーガナイザーだ」と位置づけた。

 この4月から始まった「特定健診」で、尿蛋白は検査項目に入ったものの、血清クレアチニン値が外されたのは、厚労省のCKDに対する認識を示したものであり、その事実を受け止め、「メタボリック症候群や生活習慣病と、CKDは密接に関係していることを示すエビデンスを強化し、明確に示す必要がある。減塩、禁煙、メタボ対策、さらには特定健診への参加など、生活習慣の是正に、腎臓専門医も積極的に取り組むべきだ」と語った。

 今後は、「究極的な総合」を目的とした腎臓学会創立の原点を見つめ、「社会や行政の要望へのアンテナを高くし、10年後、20年後に向けた課題に挑戦していくべきことを、一連のCKD対策が私たちに教えてくれた」と締めくくった。