国立循環器病研究センター研究所生化学部の徳留健氏

 心房性ナトリウム利尿ペプチドANP)の受容体であるグアニリルシクラーゼ-AGC-A)を血管内皮で過剰発現するトランスジェニックマウスと、逆にGC-Aを発現しないGC-A遺伝子欠損マウスを用いた検討により、血管内皮のANP/GC-A系がメタボリックシンドロームの有望な治療標的であることが明らかになった。10月26日まで大阪で開催された日本高血圧学会(JSH2013)で、国立循環器病研究センター研究所生化学部の徳留健氏が発表した。

 例えば、将来、血管内皮細胞のGC-Aに特異的に働く経口作動薬を開発することができれば、メタボリックシンドロームの治療薬につながる可能性がある。

 徳留氏らはGC-Aが血管内皮細胞で豊富に発現されていることに着目し、血管内皮ANP/GC-A系の病態生理学的な意義を明らかにするために、内皮細胞特異的な受容体チロシンキナーゼであるTie2のプロモーターとエンハンサーを用いて、血管内皮特異的GC-A過剰発現マウス(Tie2-GC-A-Tg)を作製した。

 このTie2-GC-A-Tgマウスは、(1)収縮期血圧が野生型マウスに比べて15mmHgほど有意に低い、(2)心重量/体重量比は野生型の85%程度と小さいが心臓の拡張能は優れている、(3)血漿cGMPレベルが野生型の2倍強である、(4)心室BNPおよびSERCA2の遺伝子発現は野生型と同等である、といったユニークな表現型を備えていることが分かった。

 このマウスは心拍出量が野生型マウスよりも有意に多いが、動脈エラスタンスは野生型マウスの約半分と著しく小さい。血圧は心拍出量と動脈エラスタンスの積によって決まることから、このマウスでは、動脈エラスタンスの顕著な低下により、血圧が低下する表現型が生じたものと考えられた。

 続いて、シンクロトロン放射光施設(Spring-8)で下肢動脈の微小血管造影を実施したところ、Tie2-GC-A-Tgマウスは野生型マウスに比べて当初から血管トーヌスが低下しており、アセチルコリン(ACh)を投与すると血管がさらに拡張することが確かめられた。逆に、GC-Aを発現しないGC-A遺伝子欠損マウス(Tie2-GC-A-KO)では血管トーヌスが野生型マウスに比して亢進していたが、AChを投与すると血管が拡張した。

 血管内皮を介して血圧調節に関与する系としては、他にNOS系が知られている。このため、徳留氏らは、血管内皮細胞で内因性一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウス(eNOS-Tg)とTie2-GC-A-Tgマウスの比較検討を行った。

 その結果、この2種類のトランスジェニックマウスの血圧は同程度に低いが、心重量/体重量比には決定的な差があり、Tie2-GC-A-Tgマウスは野生型マウスよりも有意に小さいのに対して、eNOS-Tgマウスは野生型と全く変わらないことが分かった。また、Tie2-GC-A-KOマウスの心重量/体重量比が野生型マウスよりも有意に高いことも確かめられた。

 これらの結果は、血管内皮ANP/GC-A系が、NOS系とは独立して内皮依存性の血管拡張反応を司っていることを示唆するものだ。

 さらに、Tie2-GC-A-Tgマウスでは、高脂肪食負荷に伴う体重増加が野生型マウスに比して有意に抑制され(7週後から有意差、P<0.05)、インスリン負荷試験およびブドウ糖負荷試験で評価したインスリン抵抗性も野生型マウスに比して有意に改善した(P<0.05)。eNOS-Tgマウスに高脂肪食を与えた場合の体重増加は野生型マウスと同等であり、Tie2-GC-A-KOマウスでは体重増加、インスリン抵抗性ともにむしろ悪化した。

 以上の結果から徳留氏は、「血管内皮ANP/GC-A系は、NOSとは独立した血管内皮依存性血管拡張因子であり、血圧だけでなくメタボリックシンドロームに対しても抑制的に作用することが示唆される」と結論した。