東京都健康長寿医療センター循環器内科の原田和昌氏

 超高齢者の脳心血管イベント予防において、収縮期血圧で150mmHg未満を目指した降圧治療の有効性が示唆されている。しかし、リアルワールドにおいて超高齢者の脳梗塞を予防できる血圧レベルについては、まだデータが不足しており、明確にされていない。東京都健康長寿医療センター循環器内科の原田和昌氏らは、脳を含む剖検が行われた高齢者約2500例で、診察室血圧と剖検診断脳梗塞との関係を検討。血圧レベルが脳梗塞リスクと関係しなかった心房細動例を除くと、超高齢者(80歳以上)の脳梗塞リスクは、I度高血圧に該当する収縮期血圧140〜155mmHg以上で有意に増大する成績を得た。10月26日まで大阪で開催されていた日本高血圧学会(JSH2013)で報告した。

 脳心血管疾患による死亡リスクが収縮期血圧の上昇に伴って連続的に増大することは、80歳代においても確認されている。61の前向き観察研究、計約100万人を対象としたメタ解析からは、脳心血管疾患の一次予防において、診察室血圧115/75mmHg以上で、20歳代から80歳代までのすべての年齢層の心血管死亡リスクが連続的に上昇することが報告された。

 高血圧を有する超高齢者における降圧治療の有用性,安全性を検証した無作為化比較試験HYVETでは、積極的な降圧薬治療を行って2年後に平均144/78mmHgとなった群は、平均159/84mmHgであったプラセボ群に比べ、脳卒中死などが有意に抑制され、超高齢者において150mmHg未満を目指した降圧治療の有効性が示唆された。。

 こうした種々の知見から、高齢者でも他の年齢層と同等の血圧レベルに管理する必要性が指摘されている。しかし、リアルワールドにおいて超高齢者の脳梗塞を予防できる血圧レベルは明確にされていない。そこで原田氏らは、超高齢者の脳梗塞を予防し得る血圧レベルを明らかにする目的で、病理診断された脳卒中のリスクを有意に増大させる血圧レベルを検討した。

 対象は、1986年7月から2000年5月に東京都健康長寿医療センターで死亡した高齢者で、剖検が行われた連続3100例のうち、脳の剖検も実施された2473例(男性1247例、女性1226例、平均年齢80.6歳)。重篤な疾患を発症する前の診察室血圧と、剖検により診断された脳卒中との関係を解析した。

 対象症例全体の血圧の平均は収縮期141.4mmHg、拡張期77.5mmHg。心筋梗塞は21%、脳梗塞は66%、脳出血は26%に認められた。降圧薬治療は35%の症例に行われていた。

 収縮期血圧や脈圧は加齢とともに上昇した。また、加齢により、頭蓋内血管の動脈硬化、脳梗塞の重症度が進み、腎重量は減少が認められた。脳梗塞の重症度は年齢、収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧、頭蓋内血管の動脈硬化、心房細動および腎重量と有意に関連していた。

 収縮期血圧を4分位に分け、脳卒中発症の死亡年齢・性調整ハザード比(HR)を比較検討したところ、対象症例全体の脳梗塞HRは、120mmHg未満群に比べ、140〜155mmHg群で1.69、156mmHg以上群で2.56と、いずれも有意な上昇が認められた。140〜155mmHg以上の血圧レベルを示した群で脳梗塞HRが有意に上昇した成績は、80歳未満の男女全体、80歳未満の男性でも同様に認められた。80歳未満の女性においては、すでに120〜139mmHg群から有意なHR上昇が認められた。

 80歳以上で検討すると、男女全体では156mmHg以上の群でのみ脳梗塞HRが有意に上昇した。80歳以上の男性でも同様の結果だった。80歳以上の女性では、どの血圧レベルでも有意なHR上昇は認められなかった。

 しかし、心房細動の有無を考慮して検討すると、異なる結果が得られた。まず、心房細動を有する患者(393例)では、いずれの血圧レベルでも有意なHR上昇は認められなかった。これに対して、心房細動のない患者(2080例)では、前高血圧レベルに相当する120〜139mmHg群から脳梗塞HRの有意な上昇が認められた。

 そこでさらに、心房細動のない患者の脳梗塞リスクを年齢別に検討したところ、ここでは80歳未満、80歳以上のいずれにおいても、140〜155mmHg群から脳梗塞HRの有意な上昇が認められた。140〜155mmHg群のHRは、80歳未満で1.99、80歳以上で1.60だった。

 腎重量に関しては、中等度以上の腎重量低下により、死亡年齢、血圧で補正した脳梗塞HRが有意に上昇するデータが得られた。この結果は、80歳未満、80歳以上のいずれにおいても同様に認められた。

 一方、脳出血のHRは、対象症例全体、80歳未満においては120〜139mmHg群から、80歳以上においては140〜155mmHg群から有意な上昇が認められた。

 以上の成績より、脳梗塞のリスクが有意に増大する血圧レベルは、高齢者全体および80歳未満の高齢者で140mmHg以上、80歳以上では156mmHg以上となったが、血圧レベルが脳梗塞リスクと関係しなかった心房細動例を除くと、高齢者全体で120mmHg以上、80歳未満および80歳以上では140mmHg以上となることが分かった。原田氏は「心房細動例を除外すると、80歳未満、80歳以上を問わず、I度高血圧が脳梗塞リスクを増大させると考えられる」と結論した。