重症低血糖を発症した患者では、高率に著明な血圧上昇を認めることが示された。国立国際医療研究センター病院に救急搬送された患者をレトロスペクティブに検討した結果、明らかになった。同センター病院の辻本哲郎氏らが、9月22日まで名古屋で開催されていた日本高血圧学会(JSH2012)で発表した。

 演者らは、重症低血糖発症時の血圧の変動や短期的な臨床経過を把握する目的で検討を行った。

 対象は2006年1月1日から2012年3月31日までに、国立国際医療研究センター病院に救急搬送され、重症低血糖と診断された患者とした。重症低血糖は、自力での回復が困難でブドウ糖静注などの医学的介入を要する状態と定義し、レトロスペクティブに調査を行った。

 解析にあたっては、来院前に糖尿病、高血圧と診断されている場合か、あるいはそれぞれの治療薬の使用歴がある場合に、糖尿病あり群または高血圧あり群とした。

 主要評価項目は重症低血糖時における血圧変化とし、副次評価項目は重症低血糖時における合併症と転帰とした。

 調査の結果、対象期間中に救急搬送された患者は5万9206人で、来院時に重症低血糖ありだった患者は633人だった。来院時点で心肺停止だった27人を除く606人について解析を行った。

 解析対象を1型糖尿病(90例)、2型糖尿病(323例)、その他の糖尿病(15例)、非糖尿病(178例)の4群に分け、さらにそれぞれの群で高血圧の有無で比較した。

 その結果、来院時収縮期血圧(中央値)は、1型糖尿病の場合、非高血圧群(61例)が136mmHg、高血圧群(27例)が162mmHgで、後者が有意に高かった(P<0.01)。同様に、2型糖尿病では、非高血圧群(99例)が160mmHg、高血圧群(222例)が171mmHgで高血圧の群で有意に高かった(P=0.01)。非糖尿病では、非高血圧群(136例)が120mmHg、高血圧群(38例)が137mmHgで、やはり高血圧群で有意に高いという結果だった(P<0.01)。一方、来院時拡張期血圧には、こうした有意差は認めなかった。

 来院時重症高血圧(180/120mmHg以上)の割合は、1型糖尿病群(88例)で20%、2型糖尿病群(319例)で39%、非糖尿病群(170例)で9%だった。2型糖尿病群では、他の2群より有意に多いという結果だった。

 重症低血糖とともに新しく診断された疾患は、心血管疾患が1型糖尿病群(90例)では0件、2型糖尿病群(323例)では5件(1.5%)、非糖尿病群(178例)で1件(0.6%)だった。外傷は、1型糖尿病群で5件(5.6%)、2型糖尿病群で19件(5.9%)、非糖尿病群で17件(9.6%)だった。

 転帰をみると、1型糖尿病群(90例)では88%が救急外来からの帰宅となっていた。入院してからの帰宅は12%だった。2型糖尿病群(323例)では、救急外来からの帰宅が66%、入院してからの帰宅は26%、転院が6%などだった。非糖尿病群(178例)でも救急外来からの帰宅が43%と多かったが、入院してからの帰宅が29%、転院が11%で、死亡も17%あった(救急外来での死亡2%、入院後死亡15%)。

 これらの結果から演者らは、今回の検討で重症低血糖を発症した患者の血圧変動あるいは短期的な臨床経過を明らかにできたとし、「糖尿病患者は重症低血糖時において、高率に著しい血圧上昇を認めた」点を大きな成果とした。著明な血圧上昇については、低血糖がインスリン拮抗ホルモンであるカテコラミンなどの分泌を介して血圧上昇につながった結果ではないか、と考察した。

 また、重症低血糖時には重症高血圧も非常に多く治療後は速やかに血圧の低下を認める、2型糖尿病で心血管イベントを同時に発症する例が目立つ、重篤な外傷の合併を認める、転帰として2型糖尿病や非糖尿病患者において死亡が少なからず存在する――などが明らかになった点を強調した。

 最後に、重症低血糖は心負荷を引き起こすだけなく心血管疾患や死亡との関連も考えられるとし、今後も更なる研究が必要との見解を示した。

(日経メディカル別冊編集)