福島県立医科大学の田中健一氏

 東日本大震災後、慢性腎臓病CKD)患者の血圧が有意に上昇し、特に維持透析患者においては血圧上昇が遷延していることが示された。福島県立医科大学の田中健一氏らの研究により明らかになったもので、成果は9月22日まで名古屋で開催されていた日本高血圧学会(JSH2012)で発表された。田中氏は、「心血管イベント発生など患者予後への影響が危惧される状況であり、長期間の対応が求められる」などと訴えた。

 田中氏らは、東日本大震災の地震あるいは津波による直接的な被害を免れた福島市および郡山市に住むCKD患者を対象に、震災前後の血圧変動を調べ、その影響因子を解析した。

 まず研究1として、福島県立医科大学腎臓高血圧内科外来通院中のCKD3〜4期の患者132人を対象に、震災前後の血圧変動を調査した。その結果、震災後初回受診時の外来測定血圧値(発生から1〜3週目)は、震災前に比べて有意に上昇していた。震災前のレベルに戻ったのは、発生から5〜7週目であった。血圧変動への影響因子を調べたところ、「女性」が促進的に、交感神経抑制系の降圧薬が抑制的に関わっていることが分かった。

 一方、震災前後の家庭血圧データが確認できた38人の検討では、収縮期血圧の変動が大きく、震災翌日には最高値を示していた(平均7.5mmHgの上昇)。非CKD群では3.4mmHgの上昇に留まっており、CKD群の変動幅が大きかった。さらに震災前の血圧レベルに戻ったのは、発生から4〜5日後だったことも分かった。

 田中氏らは研究2として、維持透析患者についても検討した。対象は福島市内に住む維持透析患者205人。血圧変動を調べたところ、震災後1週目の収縮期血圧/拡張期血圧の平均血圧変動は、透析前が+5.4/+2.7mmHgで、透析後が+8.6/+2.7mmHgと、有意に上昇していた。透析前血圧は2週目に震災前の血圧レベルに戻ったものの、透析後血圧は8週目の時点でも有意な上昇が認められ、血圧上昇の遷延が確認された。影響因子の解析では、α遮断薬の使用が抑制因子であった。

 最後に研究3として、震災前後の家庭血圧のデータが確認できた郡山市内に住む維持透析患者についても検討を行った。その結果、震災翌日には収縮期血圧が+10.1mmHg、拡張期血圧が+2.9mmHgと、収縮期血圧において著しい上昇が認められた。この血圧上昇は約4週間持続していたことも明らかになった。なお、影響因子の解析からは、RAS阻害薬非投与の症例で変動が大きいことも分かった。

 これらの結果から田中氏らは、「震災ストレスはCKD患者の血圧に大きな影響を与えていた。機序としては、交感神経系およびRA系の活動亢進が関わっている可能性が確認された」などとまとめた。その上で、心血管イベント発生など患者予後への影響の検証が必要と考察。「震災後の血圧変動に対しては、より長期間の対応が必要」であると指摘した。

(日経メディカル別冊編集)