東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想寄附講座の佐藤倫広氏

 2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、被災者の朝の家庭血圧が有意に上昇し、4週後までに低下したことが分かった。東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想寄附講座の佐藤倫広氏らが、10月20日に宇都宮で開幕した日本高血圧学会(JSH2011)で発表した。

 大災害直後には、被災地の脳心血管死亡率が倍増することが報告されており、その原因として、血圧上昇、脱水、血栓傾向の増大などが挙げられている。また、阪神淡路大震災発生後には、2〜4週間にわたり、随時血圧が約5〜15mmHg上昇したとの報告がある。そこで佐藤氏らは、随時血圧より再現性が良好とされ白衣効果を除去できる家庭血圧を用いて、高血圧患者における東日本大震災前後の血圧変化を後ろ向きに検討した。

 対象は仙台市内の高血圧専門外来を受診中で、震災後0〜2週、2〜4週、4〜6週の間に朝の家庭血圧をそれぞれ3日以上測定しており、この間に降圧薬の変更がなかった142人。このうち男性が84人(59%)で、平均年齢は68歳、平均BMIは25kg/m2、心血管疾患既往は13人(9%)、糖尿病は25人(18%)、脂質異常症は61人(43%)、喫煙者は21人(15%)だった。

 震災前後における血圧値を見ると、収縮期血圧は震災前が126.9mmHgであったが、震災後0〜2週では129.3mmHgと、震災前に比べ有意に上昇しており(P<0.01)、2〜4週でも128.5mmHgと有意に高値なままだった(P<0.05)。脈拍については、震災前が63.1拍/分、震災後0〜2週では64.1拍/分と有意に上昇したが(P<0.05)、その後は震災前のレベルに戻っていた。一方、拡張期血圧では震災前後で有意な変化はなかった。

 さらに、震災当日とその後3日間連続して朝の家庭血圧を測定していた10人(年齢66.6歳、男性6人)で検討したところ、震災翌日をピークとする急激な血圧変動が観察された。震災当日と翌日の差は、収縮期血圧が11.6mmHg、拡張期血圧が3.9mmHg、脈拍が4.7拍/分だった。

 また、震災後2週間の収縮期血圧値と震災前の収縮期血圧値の差で検討対象を3分割したところ、0.2mmHg未満群、0.2mmHg以上6.1mmHg未満群、6.1mmHg以上群となり、男性比率、年齢、BMI、疾患合併率などで3群間に有意差はみられなかった。ただし、降圧薬の服用率をみるとARBだけ有意差が認められ、服用率は順に89.4%、76.6%、62.5%と、震災後の昇圧が低い群ほど、ARBの服薬率が高かった。

 阪神淡路大震災直後、心筋梗塞発症率が例年の3倍に急増したものの、4週後までに減少したという報告があるが、これは今回の検討による家庭血圧が上昇した期間と一致していた。血圧の日間変動も一時的に増大していたため、佐藤氏は「朝の血圧および血圧日間変動の増大が震災後の脳心血管疾患の一因である可能性」を指摘した。また、ARB服用者では震災後の昇圧が低値であったことから、昇圧にはレニン・アンジオテンシン系が関与している可能性があると述べた。

 最後に、共同研究者である同講座の今井潤氏は、津波により壊滅的被害を受けた地域の避難所で医療活動を行った経験も踏まえ、災害時に使用できる慢性疾患の治療薬や太陽電池で駆動する家庭血圧計を備蓄しておくことや、緊急時における医師以外への処方権付与の特例制度を整備することなどを提言した。また、患者は処方されていた薬剤名やその投与量に限らず過去の医療情報を失ってしまうため、医療情報を保存しておくICタグなどを整備する必要性も指摘した。

(日経メディカル別冊編集)

■訂正
・10月28日に以下の訂正を行いました。
 4段落目の「収縮期血圧では震災前後で有意な変化はなかった」は、「拡張期血圧では震災前後で有意な変化はなかった」の間違いでした。お詫びして訂正します。