慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科の畔上達彦氏

 アンジオテンシンII受容体に対するワクチンを投与することにより、高血圧自然発症ラットの血圧上昇を降圧薬と同等に抑え、腎障害の抑制効果も見られることが示された。慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科の畔上達彦氏、同准教授の篠村裕之氏らの研究結果で、10月15日から福岡市で開催された第33回日本高血圧学会総会で報告された。

 海外でヒトを対象とした第IIa相試験が実施され、アンジオテンシンIIに対するワクチンの降圧効果と安全性に関する論文が2008年に発表されている。しかし、こうしたレニン・アンジオテンシン系に作用するワクチンが腎障害に及ぼす影響については検討されていなかった。そこで畔上氏らは、高血圧自然発症(SHR)ラットにアンジオテンシンII受容体1(AT1受容体)ワクチンを接種し、降圧効果と腎保護効果を検討した。なお、最近、AT1受容体はアンジオテンシンIIがなくてもAT1受容体単独でシグナル伝達作用があることなどが示唆されている。

 AT1受容体ワクチンの結合部位は、AT1受容体の第二細胞外ループのペプチド(アミノ酸181〜187番)。キャリア蛋白としてKeyhole Limpet Haemocyuanin(KLH)を結合し、Freund’s adjuvantを結合させることで抗体産生性を高めた。

 雄性4週齢のSHRラット(n=43)を、無処置群、対照群、KLHキャリア蛋白のみを接種した群(vehicle群)、AT1受容体ワクチン接種群、ヒドララジン投与群、カンデサルタン投与群の6群に割り付けた。

 AT1受容体ワクチンは4、6、8週齢時に皮下に注射した。また、18週齢から21週齢にかけてL-NAMEを投与して腎障害を惹起させた。L-NAMEの投与を開始した18週齢からは1週間毎に24時間蓄尿を行い、尿蛋白を測定した。また、21週齢で屠殺して腎、心、大動脈の組織を採取し、組織学的検討を行った。

 無処置群、対照群、vehicle群は同じレベルで血圧が上昇し続けたが、AT1受容体ワクチン接種群の収縮期血圧値は、ヒドララジン投与群、カンデサルタン投与群と同レベルで推移し、vehicle群に比べて有意に低く抑えられた。このことから、AT1受容体ワクチンはSHRラットにおいて降圧効果を発揮することが示された。また、AT1受容体ワクチンの降圧効果はL-NAMEによる腎障害惹起後においても持続した。

 尿中蛋白排泄量については、AT1受容体ワクチン接種群およびカンデサルタン投与群は、L-NAMEを投与していない無処置群と同等で、L-NAMEによって腎障害を受けているvehicle群よりも有意に少なかった。降圧レベルが同等だったが、腎保護効果がないと考えられるヒドララジン投与群では有意な低下は認められなかった。

 AT1受容体ワクチン接種群の糸球体硬化スコアはvehicle群に比べて有意に低く、かつカンデサルタン投与群と同レベルにあった。

 また、胸部大動脈の内膜肥厚度は、AT1受容体ワクチン接種群ではvehicle群に比べて有意に低下した。冠動脈周囲の線維化スコアはvehicle群に比べて低下していたが統計学的には有意差は認められなかった。また、AT1受容体ワクチン接種群はBUN値が有意に低下し、無処置群やカンデサルタン投与群と同程度だった。

 以上の検討から畔上氏は、AT1受容体ワクチンは降圧効果を有するだけでなく、蛋白尿や腎障害の発症予防においても今後有望となる可能性があると締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)