国立循環器病研究センター高血圧・腎臓科の堀尾武史氏

 『高血圧治療ガイドライン2009』(JSH2009)では、発作性心房細動や心不全合併例、左室肥大や左房拡大が明らかな症例に対して、心房細動予防の観点からレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬を中心とした十分な降圧療法を推奨している。しかし、日本人においてRA系阻害薬の心房細動予防効果が実証されているわけではない。そこで、国立循環器病研究センター高血圧・腎臓科の堀尾武史氏らは、日本人高血圧患者においてRA系阻害薬が心房細動の新規発症を抑制するかどうかを検討し、その結果を10月15日から福岡市で開催された第33回日本高血圧学会で報告した。

 2005年に発表されたメタ解析で、RA系阻害薬を投与することで心房細動の新規発症が28%有意に抑制されることが報告されているが、解析対象の臨床試験は心不全患者を対象としたものが少なくない。

 高血圧患者を対象とした試験でみると、例えば、左室肥大を伴う高血圧患者を対象とした試験において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)がβ遮断薬に比べ心房細動の新規発症を33%抑制することが示されている。また、ARBはCa拮抗薬に比べ新規あるいは持続性の心房細動を有意に抑制することが、別の試験で報告されている。しかし、心房細動既往例では現在のところ、ARBの心房細動再発抑制効果は否定的である。

 対象は同科にて、1997年〜2003年に心エコー検査を実施した本態性高血圧患者のうち、検査時に洞調律で、かつ発作性心房細動の既往、心不全、心筋梗塞、心房・心膜疾患、弁膜症、左室壁運動異常がなく、追跡期間中の投薬状況が最後まで確認できた1022人(平均年齢63歳)。対象者は外来で定期的にフォローアップし(平均観察期間は4.6年)、観察期間中に発作性あるいは慢性の心房細動を新たに確認されたのは51人(年間発症率1.1%)だった。

 観察期間中にRA系阻害薬の投与が中止された症例は解析対象から除外し、観察全期間あるいは観察終了時点の6カ月以上前から終了時までRA系阻害薬が投与されていた症例を投与群(556人)、観察期間を通じてRA系阻害薬が投与されなかった症例を非投与群(408人)とした。両群で患者背景を比較すると、BMI、高血圧罹病期間、糖尿病罹患率、慢性腎臓病(CKD)罹患率、収縮期血圧、HbA1c、左房径(LAD)、左室重量係数(LVMI)が、投与群でいずれも有意に大きかった。一方、年齢、男女比、喫煙・禁煙率、拡張期血圧、推定糸球体濾過率(eGFR)、降圧薬投与率は有意な差がなかった。

 心房細動の発生頻度をRA系阻害薬の使用の有無別にみると、投与群は4.3%、非投与群は6.1%であり、有意差はなかった。しかし、観察研究のため、RA系阻害薬の使用頻度は糖尿病やCKD、左室肥大を合併しているほうが有意に高かった。そのため、心房細動の発症やRA系阻害薬の使用に影響を与える様々な因子で調整し、Cox比例ハザード多変量回帰分析を行ったところ、心房細動の新規発症を促進する有意な因子として、年齢(10歳毎、ハザード比1.48)、喫煙・禁煙(同1.94)、CKD(同2.12)、LAD(5mm毎、同1.36)、RA系阻害薬の使用(同0.51)が同定された。

 また、Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬においても、同様の多変量解析を行ったが、心房細動の新規発症に有意な影響を及ぼさないことが示された。

 以上の検討を踏まえて堀尾氏は、「日本人高血圧患者において、RA系阻害薬の投与は心房細動の新規発症を抑制することが縦断的観察研究で示された」と語った。

(日経メディカル別冊編集)