宮崎大学/自治医大循環器内科の矢野裕一朗氏

 治療中の高血圧患者の就寝前の心拍数が高値であれば、BMIや腹囲にかかわらず、内臓脂肪の増加が示唆されるという解析結果が明らかになった。10月15日から福岡市で開催された第33回日本高血圧学会総会で、宮崎大学/自治医大循環器内科の矢野裕一朗氏が発表した。

 高血圧患者では治療中であっても、心拍数高値は総死亡や心血管死と関連することが明らかとなっている。過去の臨床試験結果から、診察室での心拍数が79拍/分以上だと総死亡率が有意に高くなることが報告されている。日本の疫学研究である大迫研究においても、家庭収縮期血圧が135mmHg未満であっても家庭心拍数が70拍/分であれば、70拍/分未満と比べて2倍以上の心血管疾患死亡リスクがあることが示された。

 特に夜間に心拍数が10%以上低下しない症例では心血管系疾患の発症リスクは高いことが分かっている。また、肥満、特に内臓脂肪優位の肥満を伴う高血圧患者では、交感神経が活性化して心拍数は上昇、代謝異常が亢進して、心血管疾患の発症リスクを上昇させると考えられている。

 こうした背景から、矢野氏らは、高血圧患者の心拍数と内臓脂肪蓄積、脂肪分布異常との関連性を解析した。本研究の目的は、降圧治療中の高血圧患者において、心拍数の高低は何を意味するのか、心拍数と内臓脂肪量や脂肪分布異常には関連性があるのか、診察室あるいは家庭血圧測定時の心拍数は臨床的な意味に違いがあるのかを検討することだ。

 この研究は、家庭血圧計を利用した観察研究であるJ-HOPのサブ解析で、何らかの心血管系疾患のリスク因子を有し、降圧剤にて治療中の高血圧患者514例を対象とした。514例は全例腹部CTを行っている。対象の平均年齢は63.5歳、男性248例、女性266例で、BMIは23.8kg/m2、ウエスト径は85.6cmであった。

 高血圧治療歴は4.1年で、血圧および心拍数は、診察室では137.9/81.3mmHg、71.0拍/分、朝の家庭血圧測定では128.5/74.6mmHg、69.2拍/分、就寝前の家庭血圧測定では126.5/72.4mmHg、70.6拍/分で、腹部CTスキャンで測定した内臓脂肪面積は90.9cm2、皮下脂肪面積は129.3cm2、内臓脂肪面積/皮下脂肪面積比は0.7であった。2型糖尿病合併例は13%で、推定糸球体濾過量は(eGFR)は71.4mL/min/1.732、降圧薬の平均使用数は2.1剤だった。

 解析の結果、肥満関連因子である内臓脂肪面積、皮下脂肪面積、内臓脂肪/皮下脂肪面積比、BMIの4つの因子と診察室心拍数には有意な関連性は認められず、朝の家庭心拍数は皮下脂肪面積との弱い負の相関が認められただけであった。

 一方、就寝前の心拍数はこれら4つの肥満関連因子のいずれとも有意に相関した。

 次に年齢、性別、喫煙・飲酒の有無、糖尿病の有無、β遮断薬の使用、就寝前の家庭収縮期血圧で補正した重回帰分析を行った結果、就寝前心拍数と内臓脂肪面積、内臓脂肪面積/皮下脂肪面積比には有意な関連性が認められた。

 さらに、就寝前心拍数を組み入れて内臓脂肪過多(内臓脂肪面積>100cm2)を予測するモデルを作成したところ、就寝前の家庭心拍数が1SD上昇したときに内臓脂肪過多となるオッズ比は1.629(p<0.001)と有意であり、ここにウエスト径を組み入れてもオッズ比は1.662(p<0.001)と変わらなかった。

 こうした結果から、BMIやウエスト径にかかわらず、就寝前の心拍数が高い場合、内臓脂肪が増加している可能性が示唆され、矢野氏は「腹囲があまり大きくなく、肥満の自覚がなくても、就寝前心拍数が高値であれば、体内では内臓脂肪が増加し、脂肪細胞から悪玉サイトカインが分泌し始めている可能性が考えられる」と指摘した。

 また、就寝前心拍数の平均値である71拍/分をカットオフ値として、対象者を2群に分けて背景因子を比較したところ、就寝前心拍数が高値の群では低値の群に比べて、就寝前拡張期血圧、空腹時血糖値、中性脂肪値、高感度CRPが有意に高かった。

 以上の検討から矢野氏は、降圧治療中の高血圧患者の就寝前心拍数は、BMIとは独立して、内臓脂肪蓄積および脂肪分布異常と関連すると結論した。

(日経メディカル別冊編集)