国立病院機構肥前神経医療センターの八尾博史氏

 慢性腎臓病(CKD)は前頭葉機能障害の新たな危険因子である可能性が示された。10月15日から福岡市で開催された第33回日本高血圧学会総会で、国立病院機構肥前神経医療センターの八尾博史氏が報告した。

 CKDは心血管病のリスク因子であるだけでなく、認知機能障害を引き起こすことが報告されるようになってきたが、その機序は不明だ。そこで、八尾氏らは、CKDと認知機能障害の関係について脳MRI健診と認知機能テストのデータを使って解析した。

 対象は、佐賀県背振町で脳MRI健診を受診した健常高齢者506例(男性192例、女性314例、平均年齢72.4歳)で、日常生活が自立している一般住民だ。

 MRI所見(1.0T、T1・T2強調画像、FLAIR画像)から無症候性脳梗塞の有無を、Modified Stroop testの成績から前頭葉機能障害の有無を判定した。推定糸球体濾過量(eGFR)は日本人のeGFR推算式を用いて血清Cr値から求めた。Modified Stroop testはpart1として赤や青などで塗りつぶした丸の色を言う。次にpart2として青色で書いた赤という漢字や緑色で書いた黄という漢字などの色を言う。part1とpart2で色を言うまでの時間の差によって前頭葉機能の評価とした。ただし、このテストでは年齢の要素が大きいため、テストのカットオフ時間について、60〜69歳、70〜79歳、80歳以上のそれぞれに相当の時間を設定した。

 合併症の保有率は、高血圧51.0%、糖尿病10.9%、高脂血症22.9%、虚血性心疾患10.7%で、eGFR<60mL/分/1.73m2未満の割合は16.4%だった。また、潜在性ラクナ梗塞は15.6%、深部白質病変は42.9%、脳室周囲高信号域は29.6%で認められた。

 Modified Stroop testで前頭葉機能障害が認められたのは103例、障害が認められなかったのは403例。前頭葉機能障害群では非障害群に比べて、収縮期/拡張期血圧が有意に高く、教育歴が有意に短く、軽度の脳卒中既往例が有意に多く、腎機能が有意に低下していた。年齢、性別、BMI、高血圧や糖尿病、脂質異常症の保有率、飲酒や喫煙習慣、虚血性心疾患や心房細動の保有率、血糖値や血清脂質値、尿酸値などには群間差は認められなかった。

 MRI所見に関しては前頭葉機能障害群では非障害群に比べて、潜在性ラクナ梗塞(24.3%:13.4%)、深部白質病変(51.4%:40.7%)、脳室周囲高信号域(37.9%:27.5%)の保有率が有意に高かった。

 多変量解析を行ったところ、前頭葉機能障害に関与する独立した因子として、拡張期血圧、eGFR、潜在性ラクナ梗塞の数の3つが同定された。

 また、年齢、拡張期血圧を共変数とした共分散分析では、eGFRが60mL/分/1.73m2未満に低下している場合、60〜89mL/分/1.73m2の場合に比べて、前頭葉機能が有意に不良だった。

 これまでにも多発性の潜在性ラクナ梗塞が前頭葉機能に影響を及ぼすことは報告されてきた。今回の検討から八尾氏は、前頭葉機能障害の新たなリスク因子としてCKDを考慮する必要があると結論した。

 この研究は、神崎保健所保健福祉課の副島秀孝氏、武藤和恵氏、出手野伸子氏、肥前精神医療センター高次脳機能研究室の高橋由紀氏、森崇洋氏、橋本学氏、杠岳文氏、同センター臨床研究部の武藤利子氏、放射線科技師の山本浩二氏、小倉医療センター精神科の村川亮氏、埼玉医科大放射線科の内野晃氏、久留米大学バイオ統計学の矢原耕史氏らの共同研究だ。

(日経メディカル別冊編集)