自治医科大学の石川由紀子氏

 65歳未満で血圧が120〜139/80〜89mmHgの前高血圧症(pre-hypertension)の一般住民は5年以上追跡すると120/80mmHg未満の住民と比べ、心血管疾患の発症リスクが上昇し始めることが明らかとなった。65歳以上では前高血圧症による発症リスク上昇は見られなかった。10月15日から福岡市で開催された第33回日本高血圧学会総会で、自治医科大学の石川由紀子氏が発表した。

 高血圧が心血管イベント発症の重大なリスク因子であることは明らかだ。米国のガイドラインで規定されている前高血圧症(pre-hypertension)は、至適血圧値に対して心血管系疾患の発症リスクが上昇すると海外で報告がある。しかし、日本人の一般住民において前高血圧症が、心血管系疾患のリスクをどの程度上昇させるのかは明らかにされていなかった。そこで、JMSコホートの10年間の追跡データを用いて、前高血圧症が心血管イベント発症に及ぼすリスクを検討した。

 高血圧治療ガイドライン2009年版では、収縮期血圧130〜139mmHg、拡張期血圧85〜89mmHgを正常高値血圧(前高血圧症に含まれる)、120〜129/80〜84mmHgは正常血圧、120/80mmHg未満は至適血圧としている。

 農村部の一般住民を対象としたJMSコホート研究では前高血圧症例は約3分の1を占めること、米国のフラミンガム研究では前高血圧症があると10年間の心血管イベントの発症リスクは男性では1.6倍、女性では2.5倍になることが報告されている。

 今回、日本人の一般住民における前高血圧症のリスクを検討した。対象は1992〜1995年に全国9県12地区で老人保健法に基づく一般健診を受けた1万2490名のうち、血圧データ欠損、降圧薬内服既往、心血管イベント既往などを有する者を除外した1万1000名である。男性が38.7%、平均年齢は55.1歳だった。

 2005年までの平均10.7年の追跡期間に、心血管イベントは465名で発症し、その内訳は脳卒中が396名、心筋梗塞が79名、脳卒中と心筋梗塞が10例であった。

 対象を米国の分類である正常血圧群(120/80mmHg未満、3694名)、前高血圧症群(120〜139/80〜89mmHg、3555名)、高血圧群(140/90mmHg以上、3751名)に分けて、心血管イベント発症リスクを比較検討したところ、正常血圧群に比べて、前高血圧症群ではリスクは1.45倍、高血圧群では3.08倍高かった。

 対象を65歳を境に2群に分けて、血圧分類と心血管イベント発症リスクを比較検討したところ、65歳未満群では、正常血圧群に比べて前高血圧症群でリスクは2.00倍有意に高かったが、65歳以上群では正常血圧群と前高血圧症群のリスクに差は認められなかった。

 また、イベント発症リスクの群間差を経時的に検討したところ、65歳未満群でも65歳以上群でも、5年後までの追跡では正常血圧群と前高血圧症群の間に心血管系疾患の発症リスクに有意差は認められなかった。

 しかし、追跡5年以降に差が見られた。65歳以上群では追跡期間全体を通じて正常血圧群と前高血圧症群の間で心血管系疾患の発症リスクに差は見られなかった。しかし、65歳未満群では、5年までは正常血圧群と前高血圧症群の間で差は見られなかったが、5年以降になると正常血圧群と前高血圧症群の間で発症率が徐々に差が見られるようになった。5年目以降は前高血圧症群の発症リスクは正常血圧群の2.13倍となった。なお、5年以降の高血圧症群の発症リスクは正常血圧群の3.03倍だった。

 このように日本人の一般住民では、正常血圧群に比べて前高血圧症群では、心血管系疾患の発症リスクが45%上昇すること、前高血圧症群におけるリスクの上昇は65歳未満の非高齢者を5年以上追跡すると認められることが示された。

 石川氏は、本研究では追跡期間中、血圧の経時的変化を考慮していない点を限界として指摘しつつ、今後の研究課題として、前高血圧症の心血管イベント発症リスクを明らかにするために、血圧の変化や高血圧への進展との関連性を検討する必要があると述べて講演を終えた。

(日経メディカル別冊編集)