自治医科大学の苅尾七臣氏

 近年、心血管病、腎臓病のリスクや合併症を複数持つ高血圧患者が増えてきている。しかし、高血圧という1つのリスクを管理しただけでは、生命予後や心血管病や腎疾患などの発症を十分に予防できないことが明らかになってきた。そのため、包括的管理の重要性が指摘されるようになったが、その具体的な方策は定まっていない。そこで、10月15日から福岡市で開催されている第33回日本高血圧学会では、シンポジウムとして「高血圧診療のニューフロンティア−包括的管理をめざして−」が設けられた。演者の1人として登壇した自治医科大学循環器内科学部門の苅尾七臣氏は、最適な高血圧管理のために必要な、リスク評価や治療指標としての血圧値、個々の患者のリスク評価、加齢によるリスクの意義と重み付け――という3つのテーマについて講演した。

 苅尾氏はまず、どの血圧を評価し、治療の指標とするかという課題について詳しく解説。これまではリスク評価に診察室血圧が用いられてきたが、現在までのエビデンスを踏まえると、まず家庭血圧を導入し、またリスクの高い症例ではパーフェクトな24時間管理を行うために、自由行動下血圧(ABPM)も導入することが望ましいとの考えを示した。

 日本の高血圧治療ガイドライン(JSH2009)では、診察室血圧と保有しているリスク因子の種類・数によって、脳心血管系疾患リスクを「付加リスクなし」「低リスク」「中等リスク」「高リスク」の4段階に層別化しているが、苅尾氏は、よりフォーカスされたリスク層別化・治療指針とするために家庭血圧も用いる必要があると強調した。その有用性を示す最新のエビデンスの1つして、フィンランドの地域住民における研究に触れ、診察室血圧よりも家庭血圧が心血管イベント発生率をより鋭敏に反映していたとの報告を紹介。自治医大の研究でも、収縮期血圧とアルブミン尿との関連をみると、家庭血圧のほうが診察室血圧より鋭敏な指標であり、臓器障害のリスクとも密接に関連していた。また、仮面高血圧は高血圧に勝るとも劣らぬ心血管系疾患イベントの発症リスクであることも示されている。そのため、正常高値であれば家庭血圧を用いて仮面高血圧か否かを判断し、きちんと管理していく必要があると述べた。

 ハイリスク症例に関しては、JSH2009ガイドラインの脳心血管系疾患リスクの層別化において「リスク第III層」(糖尿病、慢性腎臓病[CKD]、臓器障害/心血管病、3個以上の危険因子のいずれかがある)は血圧分類によらず、すべて高リスクに分類されているが、その中でもリスクに“濃淡”があると強調した。特に、糖尿病やCKDではnon-dipperやriserのパターンを示す患者が多いことが知られており、リスクは診察室血圧でなく夜間血圧に大きく依存すると指摘。また、糖尿病の有無で分けて夜間血圧の心血管イベント発症への影響をみると、糖尿病群では非糖尿病群の約4倍のリスクになるとの自治医大のデータも紹介した。したがって、こうした集団の層別化を正確に行うために、血圧の変化を詳細に把握できるABPMが有用であると語った。

 血圧と言えば、これまでは平均値を指していたが、最近は血圧変動性がトピックになっている。これは、リスクの層別化につながる重要な情報が含まれているのではないかと考えられているためで、苅尾氏は血圧変動性と中心血圧を今後参考にしていくべきとの見解を示した。血圧変動性の指標としては、モーニングサージ・昼間血圧変動、日差変動、起立性低血圧・高血圧の3つを提示。中心血圧については、上腕血圧よりも正確なリスク予測因子であるという報告を紹介し、今後、治療指標の参考となることが期待されるという。

 個々の患者の持つリスクをどこまで評価するべきか――。これに対しては、現在用いられているメタボリックシンドローム、血糖値異常、脂質代謝異常などに加え、心電図による左室肥大、微量アルブミン尿、脈波伝播速度(PWV)の3つをこの順序で推薦したいと語った。心電図で評価した左室肥大はリスクであることが報告されているように、これらは予後に関するデータが蓄積された指標であると説明。さらに、降圧治療中の患者において左室肥大や微量アルブミン尿が改善すると、血圧とは独立して心血管イベントの抑制につながることが明らかになっており、治療目標にもなり得ると述べた。PWVに関しては、cfPWVだけでなく、baPVVでも次第にエビデンスが集積しつつあるという。さらに、有望な新規のバイオマーカーとして、BNP(NT-ProBNP)、hsCRP、hsTroTを挙げた。

 最後に、加齢によりリスクの意義と重み付けが異なるかという課題に対しては、自治医大のコホートを用いた最新の研究結果を踏まえ、正常高値血圧のリスクと肥満のインパクトは年齢によって異なる、つまり若年と高齢者では異なると強調し、講演を終えた。

(日経メディカル別冊編集)