日本医科大学の大塚俊昭氏

 問診で得た塩辛い食品の摂取状況と将来の血圧の上昇や新規の高血圧の発症との間には関連が認められず、問診から食塩摂取が多い患者を拾い上げて減塩を促す指導は効果が得られにくい可能性があることが明らかになった。日本医科大学衛生学・公衆衛生学講師の大塚俊昭氏が10月15日から福岡で開催されている第33回日本高血圧学会で発表した。

 高血圧の発症予防において減塩は非常に重要であることから、健康診断や人間ドックでは「塩辛い食品」の摂取状況に関する質問項目が設けられていることが多い。

 しかし、「塩辛い」と感じる味覚の閾値には個人差があること、高血圧患者や高塩分食の頻回摂取者における塩分味覚の閾値は上昇していることなどを示す報告もあり、こうした問診で得られた情報と実際の臨床データにどの程度関連があるかは明らかでない。

 そこで、大塚氏らは、「塩辛い食品」の摂取状況に関する健康診断受診者の主観的な評価と、将来の血圧上昇および高血圧発症との関連性を、ある職域定期健康診断の結果をもとに検討した。

 対象は、企業のある事業所の2005年度の定期健康診断を受診した35〜63歳の男性社員897人(平均44歳)。すでに降圧剤を内服している患者、同健康診断で血圧が140/90mmHg以上の患者、心血管疾患を現病・既往歴を有する患者は除外した。

 2005年度の定期健康診断で、質問票に「味付けの濃いもの(塩辛いもの)をよく食べますか?」という項目に「よく食べる」「時々食べる」「ほとんど食べない」という3つの選択肢を設けた。2005〜2009年の定期健康診断のデータから、対象者の血圧値と降圧薬の新規服用状況を調査した。対象者を「塩辛い食品」の摂取状況別に3群に分け、各群における血圧の変化と降圧薬の新規服用状況を調べた。

 各群の患者背景は、年齢は「よく食べる」「時々食べる」がともに43±6歳、「ほとんど食べない」が45±6歳(p=0.021)。血圧は、「よく食べる」118/75mmHg、「時々食べる」116/74mmHg、「ほとんど食べない」118/75 mmHg (収縮期血圧p=0.089、拡張期血圧p=0.519)だった。

 平均3.5±1.0年の追跡期間中、121人(14.2%)が高血圧を新規に発症し、375人(46.0%)に日本の高血圧治療ガイドライン(JSH2009)による血圧カテゴリーの上昇を認めた。 78人(8.7%)は脱落した。塩辛い食品の摂取状況は、「よく食べる」が124人、「時々食べる」が608人、「ほとんど食べない」が165人だった。

 各群における追跡期間中の高血圧の新規発症率と、JSH2009の血圧カテゴリーの上昇を、カプラン・マイヤー法を用いて算出。各群間における発症率の差を比較した。さらに、高血圧の発症や血圧カテゴリーの上昇に関連する因子について検討した。

 「よく食べる」群、「時々食べる」群、「ほとんど食べない」群の各群における追跡期間中の高血圧の新規発症率は、それぞれ10.8%、14.2%、17.2%(p=0.36)と、塩辛い食品をよく食べると答えた群で、新規発症率が最も低いという結果だった。同様に、各群におけるJSH2009の血圧カテゴリーの上昇においても、それぞれ41.7%、44.1%、45.7%という結果だった(p=0.84)。

 JSH2009血圧カテゴリー上昇の予測因子は、年齢、BMI、高尿酸血症、ベースラインの血圧カテゴリーであり、「塩辛い食品」の摂取状況は有意な予測因子ではなかった。同様に、高血圧の新規発症についても「塩辛い食品」の摂取状況は有意な予測因子にならなかった。

 大塚氏は、「今回の検討では、問診による塩辛い食品の摂取状況と高血圧の発症、もしくは将来の血圧上昇には関連性を認めなかった。高血圧の発症予防を目的とした減塩対策において、問診で塩辛い食品の摂取状況を尋ねて、その情報に基づいて対策を講じるという方法は適切ではないのではないか」と述べた。

(日経メディカル別冊編集)