東北労災病院勤労者予防医療センターの宗像正徳氏

 上腕・足首脈波速度baPWV)は、本態性高血圧症患者の微量尿アルブミン排泄量を規定する独立した要因で、予後予測能を有することが明らかとなった。東北労災病院勤労者予防医療センター宗像正徳氏が、10月9日から札幌市で開催されている第31回日本高血圧学会総会で発表した。

 baPWVは高血圧患者において臓器障害の重症度と相関することが知られているが、高血圧症における予後予測能は明らかにされておらず、高血圧診療における臓器障害指標としての意義は確立されていなかった。

 今回、宗像氏らは、労災病院と開業医が参加するJ-TOPP研究(Japanese Trial On Prognostic Implication of PWV)の結果として、収縮期血圧とbaPWV、アルブミン尿の変化を追跡した結果を発表した。

 対象は、本態性高血圧だが未治療であった患者321人で、登録から3カ月は単剤治療としてARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬のいずれかを、3カ月以降は必要に応じて利尿薬、交感神経遮断薬などを追加し、治療した。治療前、3カ月目、1年目、2年目の時点でbaPWV、血液生化学検査、アルブミン尿定量、心血管イベントの有無を評価した。

 321人全体を対象とした結果では、微量アルブミン尿の頻度は、治療前、3カ月、1年、2年でそれぞれ25.6%、15.5%、16.8%、14.2%で、2年後に微量アルブミン尿の頻度は治療前と比べて44.5%減少した。

 2年後に微量アルブミン尿がない群(n=276)とある群(n=45)に分けて解析をした結果、年齢、性別、BMI、喫煙歴、総コレステロール値、収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖値などに違いは見られなかったが、HDLコレステロール、PWV、尿アルブミン、RAS阻害薬投与の有無に違いが見られた。HDLコレステロールはない群が60±16mg/dL、ある群が54±14mg/dL(p<0.05)、PWVはない群が1799±342cm/sec、ある群が1950±478cm/sec(p<0.01)、尿アルブミンはない群が21.6±28.0mg/g・Cr、ある群が71.6±66.4mg/g・Cr(p<0.0001)であった。RAS阻害薬が投与されていたのは微量アルブミン尿がない群で71%であったのに対し、ある群では55%(p<0.01)だった。

 2年後微量アルブミン尿を目的変数とした多変量解析では、エントリー時の微量アルブミン尿はオッズ比11.69(95%CI 5.38-25.40、p<0.0001)、RAS阻害薬の使用はオッズ比0.336(95%CI 0.154-0.733、p<0.01)、PWVの400cm/sec増加はオッズ比1.619(95%CI 1.05-2.492、p<0.05)、HDL50mg/dL以上はオッズ比0.440(95%CI 0.201-0.959、p<0.05)という結果だった。

 ここで2年後微量アルブミン尿がない群は、試験登録時から2年後まで正常値を持続した場合(持続正常群、n=224)と登録時に微量アルブミン尿があったが2年後に消失した場合(アルブミン尿消失群、n=51)があり、2年後微量アルブミン尿がある群も、2年間で新規に微量アルブミン尿となった場合(アルブミン尿新規発症群、n=14)と登録時から2年後まで一貫してアルブミン尿がある場合(持続アルブミン尿群、n=31)がある。

 この4群について収縮期血圧、PWVについて比較した結果、収縮期血圧は4群ともにほぼ同様の低下度を示したが、baPWV値の変化に違いが見られた。治療前(試験登録時)から2年後まで、持続正常群とアルブミン尿消失群はほぼ同じ値を示し、アルブミン尿新規発症群と持続微量アルブミン尿群もほぼ同じだった。しかし、持続正常群およびアルブミン尿消失群(ともに2年後微量アルブミン尿ない群)とアルブミン尿新規発症群とおよび持続微量アルブミン尿群(ともに2年後微量アルブミン尿ある群)との間でbaPWV値は異なり、2年後に微量アルブミン尿があったアルブミン尿新規発症群と持続微量アルブミン尿群が有意に高かった。

 また、治療前にすでにアルブミン尿を呈するが2年後に消失したアルブミン尿消失群は、試験登録時で持続正常群とほぼ同じPWV値となっており、2年間ほぼ同様に推移した。このことから、高血圧治療によってアルブミン尿が消失した患者は単純に血圧が高かったことに起因する微量アルブミン尿であると考えられる。一方、2年後に微量アルブミン尿がある患者は、試験登録時からアルブミン尿を呈する患者だけでなく、2年間で新規にアルブミン尿を発症した患者も、2年後に微量アルブミン尿がない患者に比べて、治療前の時点から一貫してPWV値が有意に高かった。

 この結果から宗像氏は、baPWVは高血圧症における微量アルブミン尿を指標とした予後予測能があることが示されたと結論した。また、試験登録時における2年後微量アルブミン尿あり群の平均PWV値は1900cm/sec以上で、2年後微量アルブミン尿なし群のPWV値は1800cm/secであったことから、未治療本態性高血圧症では1800cm/secを臓器障害の指標とすることが妥当だと語った。