九州大学大学院医学研究院環境医学分野の有馬久富氏

 久山町研究における剖検に基づく調査から、1960〜2000年の40年間に脳卒中による突然死が約7分の1に激減し、代わって心疾患による突然死が急増していることが分かった。降圧薬による高血圧管理が進んだ一方で、生活習慣の変化で肥満糖尿病などの代謝性疾患が増えつつあることが背景にあるようだ。九州大学大学院医学研究院環境医学分野の有馬久富氏が、10月25日に行われた日本高血圧学会の一般口演「疫学:脳血管障害・突然死」セッションで報告した。

 久山町研究は、福岡県久山町の40歳以上の一般住民を対象として1961年から継続している大規模疫学調査で、参加率80%、追跡率99%以上と高く、特に全死亡例の8割を剖検して死亡状況を調査しているのが特徴。1961年から13〜14年ごとに断面調査を実施、コホートを更新しながら追跡を続けている。

 有馬氏らは1962年から2001年までの剖検例1614例(20歳未満と外因死を除く)のうち、24時間以内の突然死165例(対象剖検例の10.2%)を対象として、60年代から10年ごとの年代別分析を試みた。

 その結果、性・年齢で調整した突然死の頻度は、60年代10.2%、70年代10.8%、80年代9.0%、90年代10.8%と有意な変化は見られなかった。

 しかし、死因別に見ると、脳卒中は60年代に剖検例の6.8%を占めていたが、70年代4.7%、80年代2.4%、90年代1.0%と40年間に約7分の1と有意に減少した。突然死に占める比率は60年代には約67%と3分の2だったが、90年代には約9%と1割を切った。

 これに対して心疾患による突然死は60年代には3.0%と脳卒中死の2分の1以下だったが、70年代には4.6%、80年代には4.6%、90年代には7.6%と有意に増加、脳卒中突然死のトレンドと全く逆の動きになった。

 有馬氏は脳卒中死減少の背景として、高血圧管理の普及を指摘した。40〜79歳の高血圧患者(血圧140/90mmHg以上、または降圧薬服用)のうち、降圧薬を服用している割合は、1961年の調査では男性5%、女性6%程度だったが、2002年には、男性40%、女性50%と大幅に増えた。これに伴って、40〜79歳の高血圧患者の収縮期血圧の平均値は、61年には男性161mmHg、女性163mmHgだったが、02年には男性148mmHg、女性149mmHgと有意に減少した。

 一方、心臓突然死が増えた要因としては代謝異常の増加を指摘する。61年には久山町40〜79歳男性の7%に過ぎなかった肥満(BMI≧25)が02年には30%に、3%だった高コレステロール血症は26%、11%だった耐糖能異常は実に56%に達した。女性でも同時期に、肥満が13%→25%、高コレステロール血症が6%→42%、耐糖能異常が5%→36%と悪化している。

 心疾患では、“超突然死”が多いのが特徴で、久山町剖検例で1時間以内の死亡例のうち、脳卒中は7%に過ぎないのに対し、心疾患は74%を占める。このため、1時間以内の死亡は心疾患の増加に伴い、60年代は剖検例の2.1%に過ぎなかったが、90年代には7.3%と約3.5倍に増えた。有馬氏は、高血圧に加え、代謝性疾患についても厳格な管理が必要と強調していた。