京都府立医科大学の福居顕文氏

 人口の高齢化に伴い、脳心血管疾患2次予防のための低用量アスピリン(LDA)療法の長期継続による小腸粘膜傷害の増加が示唆されている。その機序として小腸粘膜の透過性亢進があり、それを胃潰瘍などの胃粘膜病変の治療薬として汎用されているレバミピドが抑制することが報告された。東京で開催された第98回日本消化器病学会(4月19〜21日)で、京都府立医科大学福居顕文氏らが発表した。

 従来型NSAIDs起因性小腸粘膜傷害の第一段階は、消化管粘膜の透過性亢進と考えられている。2005年には、Maidenらがアスピリン(ASA)内服が腸管粘膜の透過性を亢進させることを報告した(Gastroentrology2005、128:1172-8)。福居氏らもまた、NSAIDsが酸化ストレス依存性およびPG非依存性に小腸上皮細胞死を引き起こすことをすでに報告している。今回演者らは、ASAによる粘膜透過性亢進の機序、ならびにその予防法が確立されていないことに着目し解明を試みた。

 初めに、ASA投与の小腸上皮細胞透過性に及ぼす影響を、経細胞および傍細胞の透過性を電気抵抗で評価する経上皮電気抵抗値(Transepithelial Electrical Resistance:TEER)と、水溶性膜非透過性分子としてfluorescein isothiocyanate-dextran(FD4)を用いた傍細胞単独の透過性試験の2つの方法で検討した。検体には腸管上皮様に分化させたCaco-2細胞を用いた。
 
 検討の結果、ASAを投与したCaco-2細胞のTEER値はASA非投与の細胞との比較で、3時間、6時間、12時間のいずれにおいても有意な透過性の亢進を認めた(P<0.05、P<0.01、P<0.01)。傍細胞経路のFD4透過性も、投与後6時間、12時間で有意な亢進を認めた(P<0.05、P<0.001)。

 次にASA投与のtight junctionへの影響をWestern blot法で評価した。Tight junctionは、最も上皮側に存在する傍細胞間の密着結合で、物質の透過を制御している。Tight junctionは、その足場となる蛋白であるZO-1(zona occludens 1)と、それに接合するClaudin familyおよびOccludinによって構成されている。

 解析の結果、ASA投与12時間後においてもClaudin familyとOccludinの発現に変化を認めなかったが、ZO-1の発現は投与6時間後から低下していた。さらにASAのZO-1への影響を免疫染色により確認したところ、ASA投与3時間後からZO-1の発現が低下し、6時間後にはほぼ消失していた。

 さらにASA投与の活性酸素種(Reactive oxygen species:ROS)産生に及ぼす影響を検討した。その結果、ASA投与30分後には上皮細胞内のROS産生の亢進を認め、亢進した活性酸素種はスーパーオキサイドが主であった。そこで、ミトコンドリアでスーパーオキサイドを消去する酵素であるMn-SOD(super Oxide Dismutase)の模倣薬であるMn-YMPyPをASAに追加投与すると、ASA投与後に認めた小腸上皮細胞におけるFD4の透過性亢進およびZO-1の発現低下が抑制された。その後の検討で、ASA投与によりZO-1は酸化修飾を受けていることが再確認された。

 これらの結果から、ASA起因性粘膜傷害の機序として、上皮細胞内でのROS産生亢進がZO-1の発現を低下させることでtight junction機能が障害され、透過性が亢進する可能性が示唆された。またZO-1がスーパーオキサイドによる酸化修飾を受けることでtight junctionの足場の蛋白としての機能を失うことも、透過性亢進の機序の1つと推察された。

 胃潰瘍などの胃粘膜病変の治療薬として汎用されているレバミピドは、抗酸化作用を有することやNSAIDs起因性ラット小腸粘膜傷害を改善することが報告されている。そこで福居氏らは、レバミピドがASA起因性小腸粘膜傷害の改善にも寄与するとの仮説を立て、前述の実験系にレバミピド投与群を加え、再検討した。その結果、レバミピドはTEERおよびFD-4透過性試験の両方で、ASA投与による細胞間透過性亢進を抑制することが確認された。また、Western blot法による検討で、ASA投与によるZO-1の発現低下を抑制することも確認された。さらに、ASAによる酸化修飾も抑制したため、抗酸化作用を有することも示唆された。

 福居氏は以上の結果をもとに、「ASA起因性小腸粘膜傷害の起点となる腸管粘膜透過性亢進の上流には、スーパーオキサイドの産生亢進があると考えられる。スーパーオキサイドの消去作用が期待されるレバミピドは、上皮細胞透過性亢進を抑制することにより、ASA起因性小腸粘膜傷害の有用な予防薬となりうる」などと考察した。

(日経メディカル別冊編集)