北海道大学の間部克裕氏

 内視鏡処置時の抗血栓薬休薬基準である「札幌コンセンサス」について、妥当性の検証が進んでいる。この新基準を日常診療に導入している医療機関を対象に行った前向き調査によると、17施設から3000例近くの登録症例があり、基準採用以降で出血例の明らかな増加はないことが示された。また、休薬を伴う内視鏡処置に関連した血栓症が2例認められた。4月20日まで東京で開催されていた第98回日本消化器病学会(JSGE2012)で、北海道大学の間部克裕氏らが発表した。

 内視鏡時の抗血栓薬の休薬については、休薬による血栓症リスクが懸念されている。そのため、日本消化器内視鏡学会(JGES)は2005年に「内視鏡治療時の抗凝固薬,抗血小板薬使用に関する指針」を作成し、可能な限り休薬期間を短縮するという方針を打ち出した。たとえば、アスピリンでは3日間休薬、チクロピジンでは5日間休薬、併用の場合は7日間休薬との指針を示している。

 演者らは、JGES指針2005は処方科側のガイドラインとの整合性という面で課題があり、十分に普及しているとは言えないと判断。処方科を巻き込んだ基準普及を目指して活動を展開してきた。

 2009年には、札幌市内で抗血栓療法と内視鏡を考える会を主催し、休薬の現状についてアンケート調査を実施。それによると、札幌市とその近郊の医療施設(14施設)がアンケートに協力し、73.3%が院内の休薬基準があると回答した。しかし、日本消化器内視鏡学会の指針を採用しているのは3施設(20%)に留まっていた。また、93.3%とほとんどの施設が「地域の医療機関が共有できる休薬基準があった方がいい」との見解を支持していた。

 そこで演者らは、札幌市とその近郊の消化器内科と抗血栓薬処方科に働きかけ、内視鏡学会のガイドラインを基に、共同で地域で共有する休薬基準「札幌コンセンサス」を作成した。2010年4月より運用を開始し、2012年3月現在、道内の17施設が採用している。

 札幌コンセンサスでは、抗血小板薬服用者、休薬ハイリスク者、抗凝固薬服用者のそれぞれに対応する基準を作成した。たとえば、抗血小板薬服用者(ハイリスクは別)においては、内視鏡処置の内容に応じ、観察、低危険手技(生検など)、高危険手技(EMR/ESDなど)の3段階に分けて休薬基準をまとめた。具体的には、観察では全て当日朝のみ休薬、低危険手技(生検など)と高危険手技(EMR/ESDなど)では、アスピリンで3日間休薬、チクロピジンとクロピドグレルで5日間休薬、シロスタゾールその他で当日のみ休薬とした。内視鏡施行後は、観察では当日再開、低危険手技では翌日再開、高危険手技では止血確認後または2日後再開としている(日本消化器内視鏡学会雑誌、52〔10〕、2979、2010)。

 札幌コンセンサスの導入に際しては、各施設の関連診療科や関連部門、連携施設の理解が欠かせないことから、院内説明会を実施している。また、妥当性を評価するとともに、課題を抽出するために、各施設の倫理委員会承認を前提に、多施設前向き調査(患者を対象とするアンケート調査も含む)に取り組んでいる。

 2012年3月現在、17施設が導入し、全体で登録症例は2763例に上った。対象者の平均年齢は72歳(23〜97歳)で、男性66%、女性44%だった。

 原疾患で最も症例数が多かったのは虚血性心疾患で795例だった。脳梗塞が779例、心房細動が359例と続いた。使われている抗血栓薬別にみると、アスピリンが1557例で半数を超えていた。ワーファリンが18.1%、クロピドグレルが11.0%などとなっていた。

 札幌コンセンサスの基準通りの休薬方法だったのは2424例で87.7%だった。基準外は334例(12.1%)、不明が3例だった。

 内視鏡処置に関連した出血例は、2763例中16例(0.58%)に見られた。出血例は全例が高齢(60歳以上)で、男性に多いという特徴があった(男性:女性、7:1)。また、ハイリスク(4例)または糖尿病合併(5例)や透析(3例)の症例が計10例と出血例の62.5%を占めていた。一方、内視鏡処置に関連した血栓症例は2例で、コンセンサスの基準通りの症例では確認されず、2例とも基準外休薬のアスピリン長期休薬症例だった(0.07%)。

 演者らは、出血例の明らかな増加はなく、血栓症も2例で全てアスピリンの長期休薬例であったとし、札幌コンセンサスは「現時点では妥当な休薬基準と考えられる」と結論した。今後は1万例の登録を目指し調査を続けるという。

(日経メディカル別冊編集)