FDガイドライン作成委員会の委員長を務める兵庫医科大学の三輪洋人氏

 日本消化器病学会が作成を進めている機能性ディスペプシアFD)と過敏性腸症候群IBS)のガイドラインについて、それぞれの進捗状況が4月19日に東京で開幕した第98回日本消化器病学会(JSGE2012)のパネルディスカッションで報告された。両ガイドラインともCQが確定し、キーワード選定から文献検索に入る段階に達した。会長を務める自治医科大学消化器内科の菅野健太郎氏の指摘もあり、2013年完成へ向けて、患者の声を反映する機会設定も検討課題に浮上した。

 FDガイドライン作成委員会の委員長を務める兵庫医科大学の三輪洋人氏は、65個のCQが確定した段階にあると報告した。内訳は、概念・定義が4個、疫学が9個、病態が13個、診断が11個、治療が21個、予後合併症が7個だった。「GERD、消化性潰瘍、クローン病など他のガイドラインと比べても遜色のないCQ数となった」(三輪氏)。

 専門家だけでなく一般医師にも理解し利用してもらうことを念頭に、FDの定義や疾患概念についてもCQに取り込んだ点が特徴の1つ。たとえば、日本における「慢性胃炎」と機能性ディスペプシアとの関係を問う「現状の慢性胃炎とFDとの関係はどのようになるのか?」を採用した。定義については、「ディスペプシアとは何か?」「FDはどのように定義されるか?」「日本の日常診療においてRome III基準の使用は妥当か?」などを設定した。

 三輪氏はまた、今後ステートメントを作成する上で議論に上りうるテーマとして、「H.pyloriとの関係がある」と指摘した。たとえばCQでは、診断の項目に「H.pylori感染者はFDから除外すべきか?」を採用した。ピロリ菌はディスペプシアの原因と考えてよいのではないか、との見解が出ていることを意識したものだ。ただ現段階では、「H.pylori感染者はFDから除外する」とまでは踏み込まないことを示唆した。

 一方、IBSガイドラインについては、作成委員会の委員長を務める東北大学の福土審氏が進捗状況を報告した。FDガイドラインと同様にCQを確定した段階にある。疫学・病理整理、診断、治療、予後・合併症の4項目にわたって計62個のCQをまとめた。福土氏は、「日本発のIBSガイドラインを目指し世界に発信できるものにしたい」と語った。

 現在作成に取り組んでいるガイドラインの大きな特徴の1つに、推奨グレード方式の変更がある。これまではエビデンスの評価は、試験デザインの違いで形式的に決まっていた。しかし、同じランダム化比較試験(RCT)であっても、症例数や脱落率に幅があり、割り付けやエンドポイントの妥当性に程度の差が見られるなど、一律に扱うことに疑問の声が挙がっていたのも事実。日本消化器学会としてはこうした反省を踏まえて、GRADE (Grading of Recommendations、Assessment、Development and Evaluation) システムを採用することを決めている。

パネルディスカッションの座長を務めた三輪氏と福土氏(右)

 GRADEシステムでは、推奨の強さをエビデンスレベルだけではなく、患者の価値観や好み、医療資源などを考慮して判定する。エビデンスレベルの評価を含めて、判定の透明性を高くしたという特徴がある。このため、ほかの推奨グレード方式とは異なり、「観察研究のエビデンスに基づく強い推奨」や、「質の高いエビデンスに基づく弱い推奨」がありえる。すでに海外では広く普及しており、WHO、UpToDate、NICE、CADTHなど30機関以上で採用されているという。

 セッションでは大会会長であり学会理事長でもある菅野氏が発言に立ち、「学会が掲げるテーマであるトランスサイエンスを具体化するもの」とし、新たなグレード方式を採用したガイドラインの意義を強調した。その上で、「患者の価値観や好み」を考慮する点に触れ、学会として患者の声を聞く機会を持つことも検討課題ではないか、と指摘した。

(日経メディカル別冊編集)