名古屋大学大学院循環器内科学の石井秀樹氏

 透析患者では冠動脈疾患、心不全、不整脈、脳卒中、末梢動脈疾患(PAD)のどれもが、非透析者に比べて多いとされる。だが、それら併存疾患に対する薬物療法についてのエビデンスは少ない。ほとんどの大規模臨床試験(RCT)が、透析患者を対象から除外しているためだ。その中で、透析患者の主要な死因である循環器疾患をどうコントロールすればよいのか。横浜で開催されていた日本透析医学会(JSDT2011)で名古屋大学大学院循環器内科学の石井秀樹氏(写真)は、「近年、インターベンションによる血行再建術の成績は確実に向上したが、透析患者においてはまだ十分ではない。補完療法としての薬物治療に対する期待は高い。今後、透析患者を対象としたエビデンス作りが必要だ」と指摘した。

 虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、薬剤溶出ステント(DES)の登場によって再狭窄という問題には1つの区切りがついた。だが透析患者ではDESを使っても、再狭窄率は高止まりしたままだ。

 第1世代のDESとベアメタルステントの留置1年後の再狭窄率を比較した石井氏らの検討では、非透析者の場合はベアメタルステント群の22.2%に対しDES群は5.6%と著明に減少したが、透析患者ではベアメタルステント群の24.4%に対しDES群22.2%と、まったく変わらなかった。第2世代のDESが使えるようになり透析患者でも再狭窄率はかなり低下したとのことだが、PCIにしても、透析患者では改善の余地が大きく残っているわけだ。

 最近、透析患者では冠動脈造影で造影されないような微小血管の機能低下による冠微小循環障害が、特に問題になることが明らかになってきた。「造影で検出される冠動脈は、すべての冠動脈の5%に過ぎない。それだけに、透析患者の心筋虚血の改善にはPCIだけでなく、薬理学的なインターベンションが重要な位置を占める」と石井氏は強調する。

 そこで石井氏らは、虚血に対する耐性獲得現象(プレコンディショニング)効果があり微小循環障害を改善するとされるニコランジルを透析患者に投与することで、心血管イベントが減少するかを調べた。後向き追跡だが患者特性を揃えた対照群を設定した比較では、6年間の心血管イベント(血管死、胸痛悪化による予定外入院)回避率が対照群の21.8%に対してニコランジル投与群では33.5%と、有意に良好だった。

 またPADでも、透析患者では血管形成術施行後の生命予後や切断回避率は不良で、この領域でも薬理学的なインターベンションの注目度が高まっている。これに対しては、抗血小板薬であるシロスタゾールの投与で、PAD合併透析患者の血管形成術後の長期開存率が有意に高まったという。

 ただ、透析患者に対する薬物的な介入は、(1)既に多剤併用となっている場合が多く新たな投与が難しい、(2)腎障害患者には禁忌となっている薬剤が多い、(3)副作用が出やすく出血のリスクも高い――といった問題点がある。

 さらに、これまで循環器用薬のエビデンスを形作ってきた大規模臨床試験の多くは透析患者を除外していることから、一般患者に言われているエビデンスが透析患者で通用するかは分からないことが大きな障害となっている。「透析患者に対するエビデンスの構築に、早急に取り組む必要がある」と、石井氏は強調した。

(日経メディカル別冊編集)