藤田保健衛生大学医療科学部臨床工学科教授の中井滋氏

 長期にわたる透析療法への暴露は、認知症の発症を少なくとも促進しない可能性が示された。横浜で開催されている日本透析医学会(JSDT2011)で、藤田保健衛生大学医療科学部の中井滋氏(写真)が発表した。

 アルツハイマー病は、アミロイドβ蛋白 (Aβ蛋白)が脳内に蓄積することにより発症すると考えられているが、脳内神経細胞に対して毒性を発揮するのは、Aβ蛋白が2個から数個結合したオリゴマー蛋白であると報告されている。Aβオリゴマー蛋白は可溶性であり、透析患者血中には高濃度に存在することが知られていることから、透析患者はアルツハイマー病を発病しやすい可能性が指摘されている。

 一方で、血液透析患者のAβ濃度が、透析療法の実施に伴い、経時的に低下することが明らかになっており、この観点からは血液透析がアルツハイマー病の予防に働く可能性が考えられる。

 そこで中井氏らは、透析療法への長期間の暴露が、アルツハイマー病を含めた認知症の発症に対して促進的に働くのか、抑制的に働くのかを明らかにするため、日本透析医学会統計調査のデータを解析した。

 2009年末の日本透析医学会統計調査(登録数23万800人)の中から、脳梗塞および脳出血の既往のない患者、透析導入原疾患が糖尿病性腎症でない患者10万5102人を抽出し、性別、年齢、透析歴を予後因子として、認知症合併を評価項目とするロジスティック回帰分析を行った。

 その結果、女性は男性に比べて認知症合併リスクが高く、65歳を超えると認知症合併リスクが急速に増大することが明らかになった。ただし、透析期間が長いほど、認知症合併率は低下していた。

 さらに、同調査で認知症の合併なしと申告された患者のみを対象に、翌年に行われた2010年末統計調査の認知症合併状況を検討した。対象は7万6218人で、うち認知症なしは7万3933人(97.0%)、認知症新規発症割合は3.0%だった。この新規発症患者においても、透析期間が長いほど認知症の発症は減少する傾向が見られた。

 中井氏は、「日本透析医学会統計調査では、単に『認知症がありますか』と尋ねているのみであり、診断の厳密性が担保されているとは言えない。しかし、万人規模の透析人口において認知症有病率が調査された報告は過去になく、診断の問題を加味してもなお、今回の解析は意義があるのではないか」と述べた。

(日経メディカル別冊編集)