大阪市立大学大学院医学研究科・代謝内分泌病態内科学の庄司哲雄氏

 透析患者の観察コホート研究では、総コレステロールが低い群、もしくは体格指数BMI)が低く低栄養とされる群で総死亡のリスクが高い。これは従来からの動脈硬化の疾患概念では説明できないことから、「透析患者の死因におけるリバースエピデミオロジー」として議論が巻き起こっていた。この問題に対し大阪市立大学大学院医学研究科の庄司哲雄氏(写真)は、動脈硬化の進行から心血管疾患(CVD)の発症に至るリスクと、CVD発症者における死亡のリスクという2段階に分けて考えると合理的な説明が可能であると、横浜で開催されている日本透析医学会(JSDT2011)で発表した。

 透析患者では、心血管疾患による死亡率の高さが問題となっている。米国の研究では、一般住民に比べた透析患者の心血管死のリスクは10〜30倍と報告されている。この傾向はわが国でも変わらず、庄司氏らの検討では透析患者の心筋梗塞による死亡のリスクは、一般住民に比べ全年齢で11.8倍、若年者では20倍以上となった。

 ところが心筋梗塞発症のリスクには、これほどの差は生じていない。琉球大学の井関邦敏氏らの検討では、男性で2.2倍、女性で4.6倍だった。心筋梗塞死で見られた10倍以上というリスクとの違いは、透析患者では発症後の生命予後が不良なことで説明が付くという。同じ井関氏らの検討では、1カ月後の生存率は一般住民の77.1%に対して、透析患者では50.8%だった。

 このように、「心血管疾患による死亡のリスクは、その発症リスクと発症後の致死率に分けることができ、それが相乗的に作用して実際の心血管死のリスクを高めている」と考えれば、どちらも一般住民に比べ数倍のリスク上昇に過ぎなくても、両者の積により実際には10〜30倍といった大幅なリスク上昇を説明できるわけだ。

 一方、欧米の成績では、TCが低い透析患者で、総死亡ないし心血管死のリスクが高くなっている。BMIも透析患者では低い方が、総死亡・心血管死のリスクが高い。このような逆転現象がリバースエピデミオロジーとして議論を呼んでいた。

 この現象を説明しようとして10年ほど前に提唱された概念が、低栄養や炎症が動脈硬化を促進するというMIA(Malnutrition Inflammation Atherosclerosis)症候群だ。だが、低コレステロールや低栄養が動脈硬化を促進するという主張は、非透析患者における多くのエビデンスと反するものであることは事実だ。