藤田保健衛生大学医療科学部臨床工学科の酒井一由氏

 血液透析を受けている腎不全患者では、透析を行っていない症例に比べて大脳皮質内のアミロイドβ(Aβ)沈着が少なく、透析が脳内へのAβ蓄積を抑制している可能性が示唆された。藤田保健衛生大学医療科学部臨床工学科の酒井一由氏らの研究成果で、11月8日から10日に長野県松本市で開催された日本認知症学会(JSDR2013)で報告された。

 酒井氏らの研究グループではこれまでに、透析を行っている腎不全患者では透析施行ごとにダイアライザーによって血中のAβが除去され、血中濃度が徐々に減少することを確かめている。しかし、脳内Aβ量と透析との関連が明らかでなかった。

 そこで今回、認知症病歴の記載がない剖検例と解剖実習体から脳組織を採取し、血液透析実施の有無と、老人斑の数や形態学的変化との関連などを比較した。

 対象は血液透析患者(透析群)16例と、非透析患者(対照群)16例。透析群は平均年齢75.8歳、58〜91歳、女性6例、対照群は平均年齢79.0歳、61〜106歳、うち女性9例)とした。

 陽性細胞数については、銀染色法(渡辺鍍銀染色、PAM染色)により、脳切片の神経細胞10個当たりの陽性細胞数を、また、NFT免疫染色により、脳切片4万μm2当たりの細胞数を計測した。また老人斑については、アビジン・ビオチン複合体(ABC)法によりAβ免疫染色を行った切片状の5カ所で、75万μm2当たりの個数を計測した。老人斑は中心に核を持ったcored plaque、周囲に神経突起を伴うneuritic plaque、核を持たず境界が不明瞭なdiffuse plaqueに分けて計測した。

 その結果、透析群では対照群に比べ、老人斑のうち、diffuse plaque数とcored plaque数が有意に少なかった(それぞれP=0.0007、P=0.013)。

 陽性細胞数は、渡辺鍍銀染色法による計測では、透析群の方が有意に低値だったが、PAM染色法では逆に、対照群の方が有意に低値だった。これは、「PAM染色ではAβ以外も計数しているためではないか」(酒井氏)という。

 また、透析を受けた期間が長期であるほど渡辺鍍銀染色法で計数した陽性細胞数は低値だった。年齢別、および脳部位別の陽性細胞数と老人斑数は、いずれも両群に明確な差は認められなかった。

 これらの結果から酒井氏は、「透析群の方が、老人斑が少なかった。これは血液透析によってAβが血中から除去され、濃度勾配が変化したことにより、脳内のAβが血液中に引き出された可能性がある」と考察した。さらに、「今後は症例数を増やし、生前カルテを入手して病態との関連も調べたい」と述べた。