岡山大学大学院精神神経病態学教室の大島悦子氏

 患者が治療の自己決定を行うために必要な要素の1つが「治療同意能力」だ。認知機能低下患者に対して、構造的な評価面接と主治医の主観的判断を比較したところ、主治医は患者の治療同意能力を高く見積もり過ぎている可能性が示唆された。岡山大学大学院精神神経病態学教室の大島悦子氏らが、11月8日から10日に長野県松本市で開催された日本認知症学会(JSDR2013)で発表した。

 患者が治療を自己決定するためには、(1)医学・医療情報の開示とその理解、(2)治療同意能力、(3)自発性、が必要とされる。このうち治療同意能力の評価については主治医に一任されているが、判定が構造化されていないため、信頼性が十分ではない。これまでに様々な評価尺度が考案されてきたが、我が国の認知症高齢者を対象に臨床現場で使えるものは乏しかった。

 そこで大島氏らは、国際的によく利用されている治療同意能力の評価尺度であるMacCAT-Tを参考にして、AD患者に対してドネペジル開始時に利用できる評価法を開発、認知障害患者と健常者に対して評価を実施し、主治医の評価と比較した。

 対象は、2010年から2013年に岡山大学病院ときのこエスポワール病院(岡山県笠岡市)を受診した軽度AD患者25人と健忘型軽度認知障害(aMCI)患者24人、健常高齢者37人。組み入れ基準は患者群、対照群とも60歳以上で同意を得ていること、患者群ではそれに加え、心理検査と家族面接を試行済みで、ドネペジルと向精神薬を内服していないこととした。

 対象者に対しては、MacCAT-T準拠の半構造化面接を実施したほか、MMSE、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、前頭葉機能検査(FAB)ほかの認知機能関連テストを実施した。

 評価面接は、各種の検査を終了後、ドネペジル内服を医師が勧める際に実施した。まず医師が用意された説明文に基づいて病名、病気の特徴、治療法、副作用、代替療法について説明。その後、試験担当者が患者と家族それぞれに対し、質問による評価法を施行した。

 質問は、「疾患についての理解」「治療についての認識」「利点・危険性についての理解」などの10問を尋ねる。その後、「理解」「認識」「論理的思考」「選択の表明」の4分類で評価した。

 各群の臨床的特徴では、健常群の年齢が69.5歳で、aMCI群(76.2歳)、AD群(78.4歳)に比べ、有意に若かった。MMSEの得点は、対照群が28.9、aMCI群が26.6、AD群が23.2で、健常群>aMCI群>AD群の順で有意差が認められた。

 治療同意能力を分類別に群間比較した(n=86)ところ、「理解」では健常群、aMCI群、AD群がそれぞれ4.39、3.81、2.62で健常群>aMCI群>AD群の順で健常群が高く、群間に有意差が見られた(P<0.001、p for omnibus test)。また、「認識」は同様に、3.89、3.63、2.92、「論理的思考」は6.97、6.42、5.08で、ともに群間に有意差が見られ(P<0.001、p for omnibus test)、いずれもAD群は健常群、aMCI群に対して有意に低かった。「選択の表明」については、有意な群間差はなかった。

 今回用いた評価方法による評価を主治医の主観的評価と比較したところ、本評価方法で「能力あり」とした症例を主治医が「能力なし」とした例は、全群を通じて1例もなかったが、本評価法で「能力なし」としたのに、主治医が「能力あり」と判定した例が、aMCI群で4.2%、AD群では32%あり、主治医が主観的に判断する場合、認知障害患者の治療同意能力を高く見積もる場合があることが示唆された。

 大島氏はこうした結果から、「治療同意能力に特段の注意を払わない場合、主治医は認知障害患者の治療同意能力を高く見積もる可能性があり、構造的な評価法を用いる意義は大きい」と結論した。

 さらに同氏は、「治療同意能力の評価で重要なのは、何点以上(以下)なら治療同意が不可能というカットオフを設けることが目的ではない。患者の同意能力が不十分であることを医療者が認識し、同意能力を高めるような援助方法を工夫するのが大切だ」と述べ、「今後、同意能力が不十分と判定された患者向けの説明・援助方法を構築し、前向きの臨床試験を実施したい」と抱負を語った。